生活協同組合研究 2013年1月号 Vol.444
特集:東日本大震災2年目の支援課題
年頭の特集は,昨年秋(2012.10.06)に,東京・御茶ノ水の明治大学リバティータワーで開催した当研究所の「全国研究集会」の記録である。
本企画の趣旨と骨格は冒頭の生源寺眞一理事長による開会の言葉に尽くされているが,大くくりに言えば,産業復興と生活復興,そして「福島」という3つの視点を立て,横串として,生活協同組合の事業・活動や,地域のいろいろな組織のネットワークによってどのような関与が可能で,課題はどこにあるかを探ろうとしたものである。本特集の随所に言及されることであるが,被災から復興に向かう地域では,地元に根差す生協・協同組合や,NPO・専門機関・商工会や,身近な(小学校区や中学校区などの)単位での住民組織も含めた連携が重要になっている。それは他地域でも同様である。全国各地の地域づくり・地域再生のテーマは,被災地復興のテーマと重なってきている。
もとより被災した地域の人々にとり産業の課題と生活の課題は不可分である。まち・くらし・福祉と,産業や雇用の建て直しは,どちらかに絞った片肺飛行で成りうるものではなく,この点に,震災後ほぼ2年が経過した現時点でもどかしさやフラストレーションを生んでいる「政策と地域住民の距離」の一端があるようでもある。三陸の漁業町しかり,福島の中山間地域しかりであり,それは地域づくり一般にも当てはまる。当研究所としても,今後,被災地を含め,それぞれの土地の生協(生協連合会)や大学・研究機関などと連携し,地域福祉論や地域商業論や地域経済論など,多角的なアプローチにより,地域をつくるという困難であり緊急的でもある課題に向けて取り組んでいきたいと考えている。当研究所にお集まりいただいている生協人,協同組合人や学識者諸賢に一層のご協力をお願いする次第である。
一方で,非常時の復興特需のあった1年目とは異なり,2年目を過ぎて流通の競争の厳しさがぶり返している。生協の経営者にとってはこちらの方が差し迫った悩みかも知れない。加えて今後は,消費税やTPP論議など,我が国の流通・小売・消費・くらしを大きく揺さぶる状況が続く。昨年11月,「国際協同組合年(IYC2012)」を記念して,英国マンチェスターで国際協同組合同盟総会と関連イベントが催されたが,その視察かたがた,日本の全国の生協から役員たちが視察ツアーを組み,欧州の生協や流通業や社会的協同組合を見て回った。編者も同行させてもらったが,共通した話題は,事業面の抜き差しならない見通しと,その中で社会的課題への対応はどのようにできるかという点であった。
いずれにしても本年(2013年)は,生協にとって,どこに立脚点をおくか自らの姿を見つめ直すことが求められる年となる。当研究所も,震災復興についての調査研究と,各地の地域づくり・地域連携の調査研究を一層進め,広く発信することによって論議に加わっていきたいと考えている。本特集をまずはそのスタートと位置付け,ご高覧をお願いするものである。ご感想をいただければ幸いである。
(研究員・林 薫平)
主な執筆者:生源寺眞一,高成田 享,加藤 司,杉本貴志,清水修二,金子成子,小澤義春,佐藤一夫,関 英昭
目次
- 巻頭言
- 国際協同組合同盟(ICA)臨時総会,第10回ICAアジア太平洋地域(AP)総会に参加して(芳賀唯史)
- 特集 東日本大震災2年目の支援課題
- 開会挨拶(生源寺眞一)
- 震災復興水産業の再建と市民参加の視点(高成田 享)
- 三陸地域再建に向けた地域商業と地域ブランド形成の課題(加藤 司)
- 高成田・加藤報告に対するコメント(杉本貴志)
- 原子力被災地ふくしま復興の課題──ウクライナ,ベラルーシの経験から──(清水修二)
- いわて生協からの報告(金子成子)
- みやぎ生協からの報告(小澤義春)
- 福島県生協連からの報告(佐藤一夫)
- パネル・ディスカッション 座長問題提起(関 英昭)
- パネル・ディスカッション 大震災2年目,生活の復興へ
- 支援活動から見えてきたもの⑤
- 地域の暮らしと仕事を再建していくための課題──釜石市鵜住居地区の町内会の聴き取りを通じて──(田中夏子)
- 海外レポート
- 国際協同組合サミット公式プレ・イベントImagine 2012参加レポート(山崎由希子)
- 残しておきたい協同のことば 第22回
- ウィリアム・P・ワトキンズ(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで
- (武田宏子)
- 研究所日誌