刊行物情報

生活協同組合研究 2012年12月号 Vol.443

特集:国際協同組合年を超えて:成果と課題

 2009年12月末の国連総会決議「社会開発における協同組合」が宣言した国際協同組合年は2012年末に終了するが,この間の内外における国際協同組合年の取り組みを振り返り,国際協同組合年を超えての課題を考えることを目的として本特集を組んだ。

 生協総研の生源寺理事長と栗本の対談は,国際協同組合年がめざしたものを再確認するとともに,日本の協同組合の様々な取り組みを振り返ってその成果を評価し,国際協同組合年を超えてのこれからの協同組合研究の課題を提起している。

 後論文は協同組合や非営利組織を中心とするサードセクター(社会的経済,市民セクターとも言う)という問題提起について解説し,経済産業研究所における調査結果に基づいて日本のサードセクターの全体像を明らかにし,セクターを構築する課題の中での協同組合への期待を語っている。

 鍋島論文は近年の金融・経済危機,紛争やエイズ,医療・福祉危機,若者の雇用危機などに対して協同組合ビジネスモデルが耐久力(レジリエンス)を発揮してきたことについて解説し,ILO(国際労働機関)がその創立当初から協同組合の推進に関わってきたことを紹介している。

 大高論文はインターネット調査(全労済協会,2011年12月,有効回答数は全国の20歳代から60歳代の男女3821人)に基づく『協同組合と生活意識に関するアンケート調査結果』を踏まえて,国民の協同組合に対する理解・認知度の低い状況を明らかにし,課題を提起する。

 小林論文は国際協同組合年実行委員会による各種イベント,協同組合の地域貢献コンテスト,「協同組合憲章」(草案)の起案,各種学習会・講演会などの取り組み,日本生協連の「つながるっていいね」組合員エピソード募集,組合員産地訪問,商品開発等の取り組みを紹介している。

 大津論文は国際協同組合年に関する各国の活動パターン,イベントの開催,新しい連帯の実践,協同組合法の見直し,新しい時代への挑戦に分類して,海外の取り組みのベストプラクティスを紹介している。その中にはアメリカ上院での満場一致の決議,イギリス首相の協同組合法改正発言,韓国の協同組合法の成立などの成果が含まれている。

 10月末に国際協同組合年のクロージング・イベントとしてマンチェスターで開催されたICA総会は,2020年までの世界の協同組合の到達目標と重点課題を「協同組合の10年のためのブループリント(設計図)」として提起している。これは協同組合が,もっとも速く成長する企業,人々に選ばれるモデル,広く知られた持続可能性のリーダーとなるという目標を2020年までにかかげ,それを実現するために「参加」,「持続可能性」,「アイデンティティ」,「法制度の整備」,「資本」という5つのキーワードに基づく課題を提起している。国連の国際年としては異例の広がりと規模をもって取り組まれた国際協同組合年の成果の上に立って,新たな10年に向けての力強い一歩を踏み出すことが求められる。

(栗本 昭)

主な執筆者:生源寺眞一,栗本 昭,金子隆之,後 房雄,鍋島由美,小林真一郎,大津荘一,大高研道

目次

巻頭言
地域社会づくりと生活協同組合の新たな可能性(金子隆之)
特集 国際協同組合年を超えて:成果と課題
対談 国際協同組合年を超えて──達成したことと,これからの課題──(生源寺眞一・栗本 昭・金子隆之)
日本におけるサードセクターの構築と協同組合(後 房雄)
協同組合の柔軟な危機対応力──様々な事例から──(鍋島由美)
日本の協同組合のIYCの取り組み(小林真一郎)
世界のIYC(国際協同組合年)活動(大津荘一)
「協同組合」は国民にどのように認知されているのか──『協同組合と生活意識に関するアンケート調査』からみる現代協同組合像──(大高研道)
支援活動から見えてきたもの④
大学生協ボランティアを通じた学生の学びと成長(山崎弘純)
日本生協の国際協力の歩みVol.7
国際交流でエンパワメント──活躍する生協の女性──(近本聡子)
残しておきたい協同のことば 第21回
アレクサンドル・P・クリモフ(鈴木 岳)
本誌特集を読んで
(江尻行男)
新刊紹介
中沢卓実・結城康博編著『孤独死を防ぐ』(藤井晴夫)
研究所日誌