生活協同組合研究 2012年8月号 Vol.439
特集:震災2年目,協同と葛藤
東日本大震災後2年目となる本年(2012)は「復興元年」とも言われる。復興計画開始や,原発事故「収束」や,避難解除・帰村などが宣言され,大きな節目が一つひとつ刻まれていく中で,「生活の復興」は簡単でなく,一律でもない。経済的なゆとりの違いや,補償の有無/多寡,帰還の意思の相違などから同じ被災者にも分裂が生まれ,被災者は様々な悩みや葛藤にさらされながらの生活を強いられている。7月23日付の『朝日新聞』朝刊は,独自調査の結果から,福島県から県外へ子どもを連れて避難した母親たちが抱える生活の課題について報告している(東京版1面・38面)。県内に残る夫などの家族と離ればなれに暮らしていることから,別離そのもののつらさに加え,二重の生活費や避難先と福島県との行き来からくる経済的な負担も伴う。
本特集の冒頭論文で,関西学院大学・災害復興制度研究所の山中茂樹教授は,被災者・避難者を放っておく「棄民」の代わりに,誰でもふるさとに帰りたい当たり前の気持ちを支えて行く「帰民」を掲げ,県外避難を自主的に続ける人たちも含めた広域の避難者のネットワークの設立を提起している。北海道大学の森傑教授(都市計画)は,1993年に大きな地震・津波を被災し,集落集団移転もおこなわれた北海道奥尻島の経験から学び,今般の震災の後の宮城県気仙沼市小泉地区の集落移転のプロセスに専門家として携わってこられた経過から,異なる志向をもつ多様な人たちの対話を生かしたまちづくりを提言している。
当研究所・近本聡子研究員(社会学)の論考では,埼玉県加須市の旧騎西高校跡地へ町役場を移している福島県双葉町の避難者生活にフォーカスしている。避難している若い母親たちには,子どもの健康への不安が大きく,政治・マスメディアへの不信も根強い。近本論考では,避難先の地元さいたまコープの避難者親子支援の取り組みから見えてきたことを素描している。東北学院大学の上田良光教授(財政・金融論)は,福島県沿海部の双葉郡大熊町から逃れ,さらに「過酷を極めた」県中部の一次避難先を離れ,西部の喜多方市へと二次避難した町民たちに寄り添う中から,生の避難者の声を伝えている。
最後に,福島県生協連の熊谷純一会長は,福島県の中に厳然としてある様々な「分断」の状況を示している。その中で,子ども保養や,農地除染を進め,「安心してくらせる『福島』を取り戻す」決意を語り,全国的な支援を呼びかけている。16万人が現在も県内・県外避難を続ける今の福島の状態をいち早く収束させ,安心できる県土を取り戻そうという主張であり,県内でまとまった以上,全国の生協でも共有できるはずであると会長は希望している。なお,本誌次号(2012年9月号)では,福島特集を予定している。今号と両号を併せて10月6日の全国研究集会(東京・御茶ノ水)に提起する心算である。全国からの被災地・被災者支援のあり方や,地域ごとの安心してくらせるまちづくりの課題をめぐって討議する場にしたいと考えているので,積極的なご参加を請いたい。
(林 薫平)
主な執筆者:山中茂樹,森 傑,近本聡子,上田良光,熊谷純一
目次
- 巻頭言
- 再び,トインビーに学ぶ(関 英昭)
- 特集 震災2年目,協同と葛藤
- 「棄民から帰民へ」──国家のメルトダウンを許すな──(山中茂樹)
- 集団移転というまちづくり──把手共歩へ向けての心得──(森 傑)
- 福島県双葉町民を支援するさいたまコープ──子育て層避難者への支援を紹介──(近本聡子)
- 東日本大震災における「南米日系の人々の日本に対する想い」と「大熊町の人々の苦悩」に接して(上田良光)
- 震災後2年目の福島──「分断」を超えて,協同による復興へ──(熊谷純一)
- 日本生協の国際協力の歩みVol.4
- 医療生協の国際協力の歩み(東久保浩喜)
- 残しておきたい協同のことば 第17回
- ジョルジュ・フォーケ(鈴木 岳)
- 研究所日誌