生活協同組合研究 2012年7月号 Vol.438
特集:社会保障と税をめぐって
本特集は,『生活協同組合研究』2010年12月号(No.419)で,「税を考えるための基礎」を組んだ特集に続く内容を十分に含むものである。ただ,本号は年金や医療などの社会保障を含め,まさに「一体化した」内容を希求する構成となった。この解題を記している時点は,衆議院での採決をめぐって大詰めの6月中下旬であり,民主党内がなお流動的な状況である。ともあれ,民主主義の理想は―というよりも,本来当たり前のことであるが―様々な考え方を知った上で,基礎的な認識を万人が共有し,議論できることである。そして現実的に制度を変えていこうとする立場からすれば,利害関係から離れ,自らの潔癖さを押し出して理解を求めること,これも実は心情的に重要なポイントである。
さて,今回も,それぞれ先頭に立って活躍されている第一人者の論陣を,大変多忙な中で執筆いただくことができた。
基調論文としての神野論文は,社会保障として,日本の年金が国際比較しても見劣りしない一方,家族現金や高齢者現物,家族現物の貧弱さを指摘し,さらに根幹として日本人のメンタリティの問題に論及するものである。駒村論文は,世代間の格差の連鎖が実際におきている状況で,医療も介護も応能負担に切りかえることが急務で,目先の損得論でない議論をせねばならないとしている。町田論文は,労働法制の規制強化と均等待遇,時短,最低賃金引き上げを行い,直接税改革等を進めることができたという前提の上で,逆進性緩和措置を導入した消費税の引き上げを提言している。樋口論文は,5月に訪問されたスウェーデンの取材から,根底にある死生観を含めた日本との相違を軽妙に記している。田中論文は,豊富な資料をもとに,しかし事実を国民の前に提供していないことが日本の最大の問題であるとしている。
最後に生協総研・山崎研究員の作成による資料編を付した。有力なOECD諸国について,特に付加価値税(売上税)の軽減税率,ゼロ税率導入の概況を精緻にまとめたものである。よく,軽減税率はうっとうしい,範囲を定めるのが大変煩雑だという日本での議論があるが,世界の多数の国にできて日本でできない理由があるのか,という反証になるかもしれない。
先述の前回の税特集の解題でも記したが,本号は保存版として3年後,5年後に読み返して頂きたい。問題を忘れないことが,今の日本に必要と思うからでもある。
(鈴木 岳)
主な執筆者:神野直彦,駒村康平,町田俊彦,樋口恵子,田中秀明
目次
- 巻頭言
- 「倫理的銀行」考(中川雄一郎)
- 特集 社会保障と税をめぐって
- 社会保障と税を考える(神野直彦)
- 社会保障・税制一体改革に向けて(駒村康平)
- 消費税の社会保障目的税化の問題点とは何か(町田俊彦)
- 「重税の国」「福祉の国」へ──スウェーデンの高齢者医療・福祉を訪れて──(樋口恵子)
- 一体改革の意味と課題──年金制度を中心に──(田中秀明)
- 資料 消費税の国際比較(編集部)
- 日本生協の国際協力の歩みVol.3
- 大学生協の国際協力活動──アジアの大学生協間交流を中心にして──(栗木敏文)
- 残しておきたい協同のことば 第16回
- ゴットリープ・ドゥトワイラー(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで
- 研究所日誌