生活協同組合研究 2012年5月号 Vol.436
特集:東日本大震災と生協の共済
本特集のベースになった「生協共済研究会」は,全労済,全労済協会,コープ共済連,大学生協共済連から委託を受け,生協総合研究所に設置している研究会である。2006年から始まり,2012年度第7期研究会もこの5月から始まる。生協法の改正や保険法の成立など共済事業をめぐる著しい環境変化の中で「民間保険と共済との比較や両者の違いについて」,「生協の共済のよさや優位性,共済らしさとは何か」,「共済事業や経営をめぐる諸問題」などのテーマについて研究をすすめてきた。成果としては,2008年に『生協の共済―今問われていること』,さらに2011年に『21世紀の生協の共済に求められるもの』を出版し,現代社会における「生協の共済」の現状と課題を解明しようとしてきた。2011年3月には,出版記念の公開研究会を予定したが,3月11日の東日本大震災が発生し,延期を余儀なくされてしまったのである。
東日本大震災は,我が国におけるくらしの安全・安心の考え方に大きなインパクトを与えた。1年余りたった現在でも,復興庁などによると今なお34万人を超える人が全都道府県に散って避難生活を送り,うち約12万人が7県の仮設住宅に暮らしているとされている。警察庁のまとめ(2012年3月)では,死者は自然災害で戦後最悪の1万5854人に上り,3155人は行方が分からないままとなっている。全国の生協の共済は,被災地への緊急物資支援や義捐金の取り組みを行ったほか,いち早く被災者へのお見舞いや共済金支払いの手続きを開始した。生協共済研究会でも,開催時期を検討していた上記の公開研究会を「東日本大震災における生協の共済の果たした役割と今後の課題」と改題し,震災同年の11月に開催することになったのである。
本特集は,この公開研究会で報告された岡田,江澤,宮地各委員からの報告とその後のパネルディスカッションをベースに組み立てたものである。地震・津波の被災地において生協の共済が果たした役割は何だったか,また,「生協の共済らしさ」(独自性や存在意義)がどう発揮されたのか。生協の共済というビジネスモデルについての分析と,「民間保険と共済との商品の同質化」が言われる中,今回の大震災で民間保険と生協の共済はそれぞれどのような役割を果たしたのかについて報告いただいた。後半のパネル討論では,甘利委員の司会により,被災地でそれぞれの共済の果たした役割を全労済,コープ共済連から発表いただき,報告者委員とともに今後の課題を明らかにしていく場となった。
冒頭紹介した『21世紀の生協の共済に求められているもの』では,表題に込めたねらいについて,「……将来を展望した生協共済の未来図を描く必要がある。確かに,現代的で洗練された共済事業の経営も重要であるが,人と人との助け合いと共済事業を分離させないことが大切である。なぜなら,日々の暮らしの助け合いを基礎に共済事業が成立しているからである。それは共済事業が始まって以来変わるものではないが,つながりや絆が求められている21世紀の社会においてこそ最も本質的な課題であり,使命なのではないだろうか」と記している(同書5ページ,研究代表者・岡田氏)。この言葉を実感する公開研究会であったので,本特集から成果をお読み取りいただき,論議に参加していただきたいと思う。
(松本進)
主な執筆者:岡田 太,宮地朋果,江澤雅彦,甘利公人,高野 智,小塚和行,鈴木洋介
目次
- 巻頭言
- 再び,東日本大震災に寄せて(大石芳裕)
- 特集 東日本大震災と生協の共済
- 東日本大震災と生協共済のビジネスモデル(岡田 太)
- 巨大災害時における協同組合・共済の役割(宮地朋果)
- 東日本大震災における保険と共済の取り組み(江澤雅彦)
- 公開研究会を終えて──残された検討課題──(甘利公人)
- 東日本大震災における全労済の取り組みと今後の課題(高野 智)
- 東日本大震災におけるCO・OP共済の取り組み(小塚和行)
- 「東日本大震災」への大学生協および大学生協共済連の取り組みについて(鈴木洋介)
- 日本生協の国際協力の歩みVol.1
- 日本生協の国際協力の歩み──序論──(栗本 昭)
- 残しておきたい協同のことば 第14回
- ジョゼフ・ルメール(鈴木 岳)
- 私の愛蔵書
- E.F.シューマッハー著 『スモールイズビューティフル』(林 薫平)
- 本誌特集を読んで
- 研究所日誌