刊行物情報

生活協同組合研究 2012年4月号 Vol.435

特集:震災1年──くらしとまちの再建へ

 東日本大震災発生から1年を経過し,この3月は,追悼・慰霊の催しが各地で行われた。震災後2年目に入って,復興計画やまちづくりが予算をともなって本格始動しつつあり好材料も見られる一方,同時に失業保険が切れるタイミングを迎えることもあり,雇用の復旧は猶予のない課題として眼の前に迫っている。また仮設住宅のその後の住宅政策も問われている。本特集の冒頭で,平山教授論文は,今般の震災の特徴として持ち家を失う罹災が多かったことを挙げ,住宅ローンを完済していたかどうかによらず,新たな生活の構築が容易でないことを指摘している。2年目を迎え,少し先を考える時間が生まれたとき,すべてを失った人たちの胸中に,住む場所と仕事の不安が深く影を落とさざるをえないことは,たとえば先の日本生協連主催の「つながろうCO・OPアクション交流会」(2012年3月8日,仙台)で,いわて生協の香木理事が発言されたことでもあった。

 平山教授は,人口や産業がどの程度将来的に定着するか見通しが不透明な段階での復興計画の先行を懸念されている。もともと,被災地域の多くは,地域の旧中心部や周縁部が空洞化しやすいことに頭を悩ませてきた地域であった。震災は,この人口移動(流出)の流れを一気に加速させかねない面をもつことから,平山教授は「地域持続」という命題を念頭におくことの大切さを強調されている。たとえば編者の取材によれば,宮城県石巻市の旧中心地「まちなか」では,震災前から,以前はにぎやかな水産業の町であった面影を所々にとどめつつも空洞化と郊外へのスプロール化が深刻化しており,古くからの住民の生活条件をどのように維持していくかが大きな課題としてあった。結果的に,地震と津波は,旧中心地から新興住宅地(蛇田地区)への人の移動を後押ししているのが現状である。佐々木准教授論文では,岩手県山田町における震災後の「フードデザート」の広がりを解析している。移動販売車などを駆使し,地元の商店やスーパーが,地域の買い物の不便や困難を解消しようと努力しているが,採算の問題や事業者同士のエリアの調整など課題がある。そもそも,人口減少下のまちづくりは競合的な側面が強く,一カ所を立てれば他所が立たぬという“ゼロサム” の性質をもっており,震災後はそれが加速した。被災した地域に仮設商店街を開設して,住民の買い物の便宜をはかるとともに被災した商店主たちの仕事の共同スペースとすることが各地で試みられているが,全体の利用者の数が限られており,大きな街道沿いには大型店が復旧(または新規出店)していることもあり,うまくいくことは難しいのが全般的な状況のようである。もとより,住民や自治体による地震・津波被害の軽重もあり,支援のバラツキや不公平感(近本研究員論文)が重なって復興計画や新たなまちづくりを難しくしている。真野准教授論文は,震災直後からの石巻中心市街地への関わりにもとづく中間的提案として,上からの計画に頼み住民の自律性を欠いた復興でなく,「復興の先にある」地域づくりに向けて住民がイニシアティブを発揮し,話し合い,利害を超え,多様な主体による多様なアイディアや取り組みが折り重なる「オープンプラットフォーム」を形成していくことを提唱している。

 本誌2011 年9月号で,大沢真理教授は,あるべき「まちづくり」について述べていて,地域の中の人材や文化や資源を大切にして,生活を重視することが肝要であり,復興の中でも同様であるとされる。また教授は本号の巻頭言で,復興・建設・雇用におけるジェンダーの論点を提起されている。こうした視点を受けてみた場合,新たなまちづくりの動きが男性たちだけで主導されるのではなく,若年女性や子どもやいわゆる災害弱者をやわらかく包摂し,その参加をうながしていくものとなるかどうかが注視される。その意味でも,森田教授論文,金丸専務論文,近本論文で伝えられている活動が注目されるところであり,たとえば森田教授は,山田町の「ゾンタハウス」での子ども支援の取り組みから,「人と人を分けてしまった震災からもう一度つながりを築くために……子どもの権利の視点を明確に大人たちが持ち,子どもと一緒に努力をし続けること」,「子どもを中心にした(子どもの参加による)支え合いの関係性を取り戻すこと」を訴えられている。金丸専務は,兵庫県から継続的に医療・保健の専門家を派遣し,岩手県大船渡市の仮設住宅で見守りや保健活動を継続されてきたことを詳細に報告され,個々の人たちのそれぞれに異なる季節ごとの生活や健康上の相談に耳を傾けてきた経過を述べられている。健康相談,保健・見守り活動,子ども支援,学習支援,子育て支援,保育,そして,パーソナルな部分の悩み相談といった分野は,大きな復興計画が見過ごしがちな部分であり,生活協同組合や非営利組織が力量発揮を期待されるところである。生活再建2年目,復興支援2年目を問う大きな試金石でもある。

(林 薫平)

主な執筆者:平山洋介,真野洋介,佐々木緑,金丸正樹,森田明美,近本聡子

目次

巻頭言
建設業の新展開で老若男女の雇用機会を(大沢 真理)
特集 震災1年──くらしとまちの再建へ
東北住宅復興の論点(平山 洋介)
現場からの復興イニシアチブ──石巻中心街での経験から考える──(真野 洋介)
東日本大震災被災地におけるフードデザート問題(佐々木 緑)
大船渡への支援行動で被災地の生活課題,健康問題を考える(金丸 正樹)
東日本大震災における子ども支援──東日本大震災子ども支援ネットワークと山田町ゾンタハウスでの取り組みを手掛かりにして──(森田 明美)
被災地域の子育て支援を再構築する動き──甚大な津波被害をうけた宮城県石巻市を事例に──(近本 聡子)
シリーズ・現代社会と生協──国際協同組合年に向けて(8)
地域福祉・高齢者福祉と生協の役割(山際 淳)
海外のくらしと協同No.33(最終回)
タイ国の社会保障制度の概要(佐藤 史子)
残しておきたい協同のことば 第13回
アルビン・ヨハンソン(鈴木 岳)
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