刊行物情報

生活協同組合研究 2012年3月号 Vol.434

特集:多重債務相談・貸付事業研究会を終えて

 2010年度先行実施している消費者信用生協,グリーンコープ,生活サポート生協東京からの要請を受けて,日本生協連は,「生協における多重債務相談・貸付事業」について調査・研究のための研究会設置を生協総合研究所に委託した。生協総合研究所は,2010年10月から2011年9月までに11回の会議と現場訪問を行い,2011年9月その報告をまとめ,日本生協連に提出した。今後の取り組みの大きな方向性についての研究会の結論は,「生協として多重債務/生活困窮相談・貸付事業に取り組むことを積極的に検討すべきである」というものであった。

 今回はこの研究会に関わっていただいた座長の重川教授をはじめとして6人の委員から今回の研究会を通じて得られた生活困窮・多重債務に関わる生活相談や貸付事業に対する考え方,生協が行う意義,地域社会から求められている役割などについて考える場として本特集を企画した。

 重川論文では,生協における多重債務相談・貸付事業の現状,なぜ生協が取り組むのか,この相談・貸付事業実施上の課題について総括的にわかりやすく提起している。

 天野論文は,今日のくらしの場の実態,多様化する世帯構造の変化を分析し,とりわけ母子世帯,高齢者世帯の経済リスクの高さを指摘し,貧困リスクをかかえる世帯の拡大について喚起し,さらに生協における相談・貸付事業の今後の取り組みの中で,特に相談員養成,消費者教育の取り組みについて提案をいただいた。

 千田論文では,改正貸金業法施行の背景と政府がすすめる多重債務者対策の中で言われている「借りられなくなった人に対する顔の見えるセーフテイネット貸付」とは何か,そして社会福祉協議会が行う生活福祉資金の貸付と異なる生協の相談,生活再生支援を目的とした取り組みが注目され,期待されているのはなぜか,生協だからできる地域社会の中での「新たな支え合い」の役割について,その必要性を訴えている。

 上田論文では,貸金業法改正から5年を経て貸し手や借り手の変化と信用生協の具体的な取り組みの変化,東日本大震災への対応と被災者への生活再建支援についても報告していただいた。

 小澤論文では,大震災が起きる前から存在していたくらしの困難,地縁的なコミュニティの崩壊の中で,地域福祉の担い手として,「誰もが安心して暮らしていくことができる地域づくり」のため,生協が取り組む意義は大きく,大震災による新たな困難が加わったいまだからこそますますその役割は大きい,とする決意が語られている。

 そして最後に,この研究会報告を受けて,日本生協連はどのように進めていくのか,取り組み方針について福祉事業推進部の山際部長から紹介をいただいた。

 なお,この研究会で特別参加をいただいた慶応大学経済学部教授・吉野直行氏の研究会報告を,ご了解のもと掲載させていただいた。

(松本 進)

主な執筆者:重川純子,天野晴子,千田 透,上田 正,小澤義春,山際 淳,吉野直行

目次

巻頭言
2001年と2011年(小栗 崇資)
特集 多重債務相談・貸付事業研究会を終えて
生協における多重債務者・生活困窮者への相談・貸付事業の現状と課題(重川 純子)
今日の暮らしの場の実態と生協における相談・貸付事業への提案(天野 晴子)
変化する地域社会と生協の役割──生協が相談・貸付に取り組む意義と戦略──(千田 透)
相談・貸付事業の新たな展開と被災者支援(上田 正)
多重債務相談・貸付事業研究会に参加して,生協がこの事業に取組む意義(小澤 義春)
生協総研「生協における多重債務相談・貸付事業研究会」最終報告を受けた日本生協連の取り組み方針について(山際 淳)
貸金業の問題の全体像と今後にむけた課題(吉野 直行)
シリーズ・現代社会と生協──国際協同組合年に向けて──(7)
大学と生協(福島 裕記)
海外のくらしと協同No.32
“People’s Supermarket” の取り組みから見えてきたもの(林 立平)
残しておきたい協同のことば 第12回
アルフォンス・デジャルダン(鈴木 岳)
本誌特集を読んで
新刊紹介
『震災の石巻 そこから──市民たちの記録──』(林 薫平)
研究所日誌