生活協同組合研究 2012年2月号 Vol.433
特集:福島原発事故以後のエネルギー問題を考える
福島原発事故については12月に政府の「収束宣言」が出されたが,安全な廃炉への道のりは遠く,被災地の復旧・復興のめどはたっていない。史上最悪と言われる事故の結果,これまで国策として強引にすすめられてきた原発の安全性と経済性に大きな疑問が沸き,ドイツ,スイス,イタリアなど脱原発を決めた国も出現している。電力の3割を原発に依存している日本でも脱原発の世論が高まっているが,今後の産業用・民生用のエネルギー政策のあり方をめぐって各界で活発な議論が行われている。日本生協連は組合員アンケート調査を実施し,エネルギー政策検討委員会は12月に最終報告を提出したが,これらの成果を盛り込みながら,今後のエネルギー問題のあり方を考えるうえでの素材を提供するために本特集を企画した。
植田論文は日本のエネルギー政策の転換の方向として「持続可能性原則」を適用することを提唱し,その内容を自然と人間との間の関係,世代間衡平と世代間倫理,地域経済・産業の発展の側面から明らかにしている。また,再生可能エネルギーの拡大に際しての留意点を「地域エネルギーマネジメント」の観点から提起している。
橘川論文は現実的なエネルギー政策に向けて「リアルでポジティブな原発のたたみ方」を提唱している。筆者はバックエンド問題(使用済み核燃料の処理問題)を根本的に解決するのは困難なことから原発の停止を前提としつつ,今後の電源構成についてそれぞれの長短を検討し,「脱原発依存」(2030年で2割)のシナリオが蓋然性をもつと分析している。
デウィット論文は福島原発事故が日本のエネルギー政策に根本的な見直しを迫っているとして,再生可能エネルギーの普及のカギとなる固定価格買い取り制度の重要性を指摘している。また,スマートグリッドやスマートシティに代表されるスマート革命が加速している現状を紹介し,エネルギー転換の必要性を訴えている。
福島原発事故以後の生協組合員の意識の変化については8月に行われた「節電とエネルギーに関するアンケート調査」の結果を紹介している。原発に対する意識,新エネルギーに対する認知度と利用・導入の意向,節電の取り組みと意識に関するアンケートの結果は組合員の意識の変化を示している。
生協の実践例としては生活クラブ生協のグリーン電力の取り組み,さらに,海外の事例として北欧の電力協同組合の事例を掲載した。半澤論文は生活クラブ生協のエネルギー自給・自治の取り組みの一つとして秋田県にかほ市に風車を建設する活動の目的と経過,北海道グリーンファンド(NPO)との連携を紹介している。バーチャル論文はエネルギーを中心にヨーロッパの公益事業の協同組合の活動を取り上げ,デンマークの風力発電協同組合や地域暖房ネットワーク,フィンランドの農村電気協同組合,スイスのカーシェアリング協同組合など興味深い事例を紹介している。
(栗本 昭)
主な執筆者:植田和弘,橘川武郎,アンドリュー・デウィット,松本 進,半澤彰浩,ジョンストン・バーチャル
目次
- 巻頭言
- ぼくの初夢──オウエン協会東北支部開設──(都築 忠七)
- 特集 福島原発事故以後のエネルギー問題を考える
- 日本のエネルギー政策──転換の方向性を考える──(植田 和弘)
- 現実的なエネルギー政策に向けて──リアルでポジティブな原発のたたみ方──(橘川 武郎)
- 日本におけるスマート革命の必要性(アンドリュー・デウィット)
- 原発,新エネルギー,節電に関する生協組合員の意識──アンケート調査結果から見えること──(松本 進)
- 生活クラブ風車の建設と新たなチャレンジ(半澤 彰浩)
- ヨーロッパの公益事業の生協──エネルギーを中心に──(ジョンストン・バーチャル)
- 研究と調査
- 協同組合の自画像──アブナー・ベンナー(Avner Ben-Ner)の理論から──(向井 清史)
- 海外のくらしと協同No.31
- 国際協同組合年(IYC)キックオフ(大津 荘一)
- 残しておきたい協同のことば 第11回
- アルベール・トーマ(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで
- 私の愛蔵書
- 城山三郎著 「粗にして野だが卑ではない」石田禮助の生涯(藤井 晴夫)
- 生協研究賞第8回表彰事業 受賞者の記念エッセイ
- 研究所日誌