生活協同組合研究 2011年12月号 Vol.431
特集:いまもう一度,フードデザートを考える
本誌2010年9月号で「『買い物弱者』問題と流通システム,生協購買事業」と題する特集を組んだ当時,「フードデザート」,「買い物弱者」または「買い物難民」の問題は,社会的な関心事であった。
読売新聞や各地方紙で報道されたほか,経済産業省や農林水産省でも検討され,流通系の学会やビジネス雑誌でも頻繁に取り上げられた。本誌特集に対しても,生協や,諸方面から反響をいただいた。
反響を受け,特集の冒頭論文の寄稿者の中央大学・木立真直教授に統一座長をお願いし,当研究所で初めての試みとなる渋谷と神戸での東西連続公開研究会シリーズを開催した。2011年2月25日に渋谷での単独開催大会,そして,2011年4月5日にコープこうべ・生協研究機構との共同主催の大会である。
両会とも木立座長から流通経済論をベースとする基調報告をいただき,併せて,2月の渋谷会場では茨城キリスト教大学・岩間信之准教授(地理学)から,4月の神戸会場では大阪市立大学・加藤司教授(地域商業論)から,それぞれ報告をいただいた。
その後,6月29日には,やはり上記特集にご寄稿をいただいた北海道大学・森傑教授にお越しいただき,生協総研賞・助成研究の成果報告を兼ねた研究会をもつことができた。「まちの整体」という最新の都市計画論の蓄積からの考察である。
以上の成果から抜粋し,一部その後の情報を更新して再編集し,今回の特集を編んだ。
いま,この時期に改めてフードデザートを考えるというのは,もちろん「震災と復興」という意味が一つある。
詳しくは,本誌の次号(2012年・年頭号)の特集「東日本大震災と生協の役割」の解題論文でもふれる予定であるが,震災によって,ライフラインとしての食の供給体制がどれだけ大切か,改めて認識されたことである。今後の復興過程における地域づくりと流通システムの再構築の方向をめぐって,2010年以降のフードデザート論議が結局何を提起したのか,ここで立ちかえってみるのが一つである。
第二に,10月から沸騰しているTPP(環太平洋連携協定)についての論議との関係である。
フードデザート問題の二つの象徴として,農村部での限界集落の拡大と,都市部の旧市街地の商店街のシャッター化の進行があるが,いずれも1990年代以降の流通政策と結び付けて議論されてきた。
一つの見方では,農業や商店街の疲弊は自由化や規制緩和の影響によるということである。この議論はTPP反対論に結び付いている。逆に,農業や商店街が,上からの規制や調整に頼り,外部からの参入を拒んできたことでかえって自律的な革新や発展の力が削がれてきたという見方もある。そうすると,TPP推進論や規制緩和論は,一概に悪いものと言えなくなる。問題の成り立ちは複雑である。
いま,もう一度フードデザート論議を複数の専門領域の視線を通して整理してみる中から,今後の地域や流通のあり方を考える際の手がかりを引き出したいと考え,まず基礎資料として4篇の論文をここに供しておきたい。今後もこのテーマでは,取材を継続し,論議を喚起していく心算である。
(林 薫平)
主な執筆者:木立真直,加藤 司,岩間信之,森 傑
目次
- 巻頭言
- 食の信頼を高めるために(中嶋 康博)
- 特集 いまもう一度,フードデザートを考える
- フードデザートとは何か──社会インフラとしての食の供給──(木立 真直)
- 地域商業の活性化とまちづくりの課題──買い物弱者問題に関連して──(加藤 司)
- フードデザート問題と地域コミュニティ(岩間 信之)
- 「まちの整体」から震災復興への展望(森 傑)
- 研究と調査
- 包摂のゆくえ──政権交代後のイギリスにかんする一考察──(今井 貴子)
- シリーズ・現代社会と生協──国際協同組合年に向けて(6)
- リスク社会と生協共済(松本 進)
- 震災と復興を考える(第8回)
- 関東大震災と消費組合,生活の合理化(井内 智子)
- 「つながろうCO・OPアクション情報」編集部より(八幡 実穂子)
- 海外のくらしと協同No.29
- 私がイタリア生協にはまったワケ(市口 桂子)
- 残しておきたい協同のことば 第9回
- G.J.D.C. フートハルト(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで
- 生協総研賞第8回表彰事業・講評
- 研究所日誌