生活協同組合研究 2011年10月号 Vol.429
特集:震災とボランティア
震災の発生から半年が経過した。課題は山積しているが,「復興」がさまざまな形で検討される段階に来ている。この過程で,そして今後も,ボランティアが果たして来た役割は極めて大きい。それは現地に駆けつけ,被災者の生活に寄り添って支援にあたった人々のことだけではない。彼らの活動をコーディネートした人々,現地に行かずとも必要な物資を集めたり,募金したり,そのために情報を集めた人々もまた,意志をもった行動を取ったボランティアであった。
ところでボランティアとは,報酬(reward)を期待することなく,何らかの行為をすること(Longman Dictionary of Contemporary English)とされ,またその語源は自由意志をあらわすラテン語の“voluntas”であるとされる。被災者に対して,また困難をかかえている誰かに何かをしたいと思う心と行動がボランティアであろう。それは誰かに強制されたものではないし,報酬のある仕事でもない。
その前提の上に,何かをしたいと思った人々が,より効果的に行動しやすくする仕組みは何だろうか,というのがこの特集の意図である。 辻元清美氏はこの点について,政府が果たせる役割を「基盤整備」と言い,「連携」の重要性を指摘する。妻鹿ふみ子氏はコーディネートをする人々と機関の必要性であるとする。田中尚輝氏は資金の問題も含めた,媒介する機能について言及している。山内明子氏は,生協の枠を超えた地域ネットワークの重要性を指摘する。そして小澤義春氏には,日常からのつながりがどのように機能してきたのか,そして生協のメンバー活動の蓄積が持っている価値を紹介いただいたと思う。
阪神・淡路大震災から16年。当時ボランティアやNPOの活動が大きな注目を集めたが,自由意志や善意はその思いの一方で,時に有効に活かされなかったこともある。
そこからがスタートであった。以来,実践の面でも,学術の面でも,ボランティアは多様な展開をみせた。東日本大震災にあたっては,どのようなフェーズでボランティが活躍できるのか,被災地のニーズに寄り添ったマッチングのあり方,そして企業や各種団体のもつ力を活かすことなど,有効な支援のあり方が追求されている。もちろん,まだまだ改善すべき点は多々あろう。しかし,本特集をとおして,ボランティアを巡って,多くの展開が見られていることを感じ取っていただければ幸いである。
(山口浩平)
主な執筆者:辻元清美,妻鹿ふみ子,田中尚輝,小澤義春,山内明子
目次
- 巻頭言
- 協同組合の統計的把握の必要性(栗本 昭)
- 特集 震災とボランティア
- ボランティア活動の基盤をつくり,連携する──東日本大震災にあたっての政治の役割──(辻元清美)
- ボランティアコーディネーター顕在化の必要性──平時,災害時の両面から考える──(妻鹿ふみ子)
- 東日本大震災と市民性・NPO(田中尚輝)
- 大震災からの復興へのボランティア──多様な「つながり」による可能性──(小澤義春)
- 生協のボランティア活動──東日本大震災支援において果たした役割──(山内明子)
- 震災と復興を考える(第6回)
- 放射能汚染に立ち向かう──怒りを胸に,楽天性を保って,最大限の防御を──(宮田育治)
- 『助け合う』こと CO・OP共済(太和田昇)
- 海外のくらしと協同No.27
- イタリア協同組合3中央会の協同強化──「イタリア協同組合連盟(ACI)」発足とその活動──(大津荘一)
- 残しておきたい協同のことば 第7回
- シャルル・ジード(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで
- 新刊紹介
- 西成活裕『とんでもなく役に立つ数学』(林 薫平)
- 研究所日誌