生活協同組合研究 2011年8月号 Vol.427
特集:女性の自立と社会参画
身近な会話から紹介しよう。20年前に筆者が協力し出版した『結婚ってなんなの!?』(1994年)に登場する30代子ども有りの夫婦の会話である。妻「ねえ,○○(夫の名),お茶いれて」,夫「なに↑? お茶入れろ? オレが?(茶碗を投げつける)」。彼女たち夫婦はその後離婚した。夫は妻に対し,“自分最適”から都合良い生活を要望し続けたからだ。
さて,現代の夫婦関係のなかで女性は対等に夫と話ができているだろうか。「対等に」というのは,日本的な状況では「遠慮することなく,ストレスなく」ということだ。生活の場で妻を日ごろから褒め,彼女の人生設計に向けてエンパワメントできる夫というのは日本ではかなりレアな存在である。
具体的な話の一方で,夫婦関係や職場内の地位に関して統計をみると,いまだ出産から数年の専業主婦(母親)比率は当時とほぼ変わらず7割前後(子どものある夫婦を母数)。生協組合員においても同様である。職場における男女の育児休業取得率については,統計的有意差云々などという範囲外で,大きく乖離している。女性管理職比率も低いままである。政治参画も同様だ。このあたりが日本のジェンダー平等指数を引き下げている要因である。一例を挙げれば世界経済フォーラムの日本の男女平等指数は「94位」である(2010年)。
子育て期に,専業で子どもに全生活をかける女性達は,なかなかその他の社会的な事象に関わる機会がない。子育て期をどのようにエンパワーするかという視点を,6月に発刊した『ケア労働を通してみた女性のエンパワメント』(生協総研レポート66号)の研究会にもお招きした国広陽子氏に提示していただいた。テーマは,最も専業主婦率の高かった世代を生きてきたご自身のライフヒストリーとも重なる。単なる「子育て」支援だけでは,ジェンダー役割を強化してしまうという指摘は,いつも視点として持っていたいところである。
政策の場から,数少ない女性知事として,最近では卒原発提言をして知事会をリードする際立った存在でもある滋賀県知事・嘉田由紀子氏に,女性の就労を自治体と地域でサポートする県政における男女共同参画プランを紹介いただいた。ご自身のワークライフバランスに苦労されたことも紹介されており,共感できる論考である。
さて,なかなか女性職員のエンパワメントが進まない企業社会である。男女ともに働きやすい職場づくりを実現しつつある福井県民生協から,安定した経営と福祉分野での地域貢献も含め,生協職員が元気に働ける背景を「経営品質」の視点から松宮幹雄専務に語っていただいた。女性比率も伸び,女性の定着率も非常に高いという。
職業領域と家族領域に同時に参加する個人は,双方への参加に時間や労力の配分をしなければならない。その配分にどういった困難(コンフリクト)があるのかをテーマに,日本家族社会学会の貴重なデータを用いて,西村純子氏に論考をいただいた。小さい子どもを育てる段階は否が応でも夫婦で担わなければ成り立たないことや,男女とも長時間労働では大変,という実感がデータにも明確に表れている。
働く場では,雇用形態による性差の発生が著しい。生協でもパートタイマーや派遣労働者などの非正規雇用者の女性比率が高く,働く場の改善になかなか参画できないのが実情である。今回は労働組合東京ユニオン(個人加盟できる労働組合)の関口達矢氏に,派遣労働を中心として男女ともに起こっている地盤沈下の状況を解説いただいた。私見では,震災以降,新しい日本社会のフレームにもディーセントワークの視点は必須だと考える。
(近本聡子)
主な執筆者:国広陽子,嘉田由紀子,松宮幹雄,西村純子,関口達矢
目次
- 巻頭言
- 職場と暮らしの安心・安全()
- 特集 女性の自立と社会参画
- ジェンダー秩序と主婦──子育て支援から「子育て期」支援へ──(国広陽子)
- 仕事と子育てが両立できる“滋賀スタイル” の実現をめざして──女性の就労をまるごとサポートします!──(嘉田由紀子)
- 女性職員も管理職を目指せる人作り──経営品質向上のなかで皆が力を出せる職場を目指す福井県民生協──(松宮幹雄)
- ワーク・ファミリー・コンフリクトの規定要因とその帰結──ジェンダーおよびライフステージによる差異に注目して──(西村純子)
- 派遣労働とジェンダー不平等(関口達矢)
- 震災と復興を考える(第4回)
- 「協同」のあるまちづくりへ(小澤義春)
- 集団移転の合理性──気仙沼市小泉地区の始動──(森 傑)
- 海外のくらしと協同No.25
- アジアの協同組合の素敵な女性たち(田中ひとみ)
- 残しておきたい協同のことば 第5回
- ジュゼッペ・マッツィーニ(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで
- 私の愛蔵書
- 『お料理基本大百科』(山口浩平)
- 研究所日誌
- 2010年度事業報告と2011年度事業計画