刊行物情報

生活協同組合研究 2011年6月号 Vol.425

特集:国際協同組合年に向けて

 2009年の国連総会は2012年を「国際協同組合年」とすることを決定したが,開発途上国や信用協同組合,農協に光が当てられている半面,日本の生協,協同組合としてどう受け止めるかは必ずしも明らかではない。この特集ではまず国際協同組合年が目指すもの,その背景と意義を明らかにする。また,労働者福祉,友愛経済,地域再生,社会的包摂などの分野における生協や協同組合の役割について考察を行う。さらに,日本の生協のユニセフ募金協力やアジア生協協力など国際協力の分野における取り組みと今後の課題を明らかにする。

 富沢論文は現在の社会経済状況,とりわけ経済・金融危機や東日本大震災という未曽有の危機の中で国際協同組合年に関する国連決議が目指すものと日本における取り組みを紹介している。とりわけ,日本における「協同組合憲章」策定の意義と目的,盛り込むべき内容を提起している。

 高木論文は労済や労金などの「労働者自主福祉事業」について,メンバーシップが限られており,より高い生活上のニーズをもつ労働者を実質的に排除していること,現金給付が中心で現物給付とリンクしていないこと,組織間の連携が弱くソーシャルキャピタルの機能が発揮されていないという問題点を指摘し,社会的企業の担い手としての協同組合を展望するために,共益を超えた公益への取り組みを提言している。

 伊丹論文は関東大震災に際して直ちに救援に駆け付けた賀川豊彦の行動とその背後にある公共哲学を紹介しながら,「友愛経済」の構想とコミュニティのヴィジョンにおける協同組合の役割,可能性を論じている。著者は今日においても,協同組合方式による復興という賀川とその周りに集まったボランティアたちの実践に学ぶことを提起している。

 北川論文は「地域再生」の背景と視点を明らかにしながら,協同組合における地域再生の取り組みを紹介している。すなわち,協同組合による内部化の取り組みとして福井県民生協の移動店舗事業,連携・外部化の取り組みとしてJAみなみ信州における農協,地域設立型法人,行政の連携を取り上げ,過疎地における買い物難民への生活必需品提供や地域における各種サービスの提供など,協同組合の役割を提起している。

 藤井論文は障害者などの「社会的排除」に対して雇用を通じた社会参加をめざす労働統合型社会的企業(WISE,ワイズと読む)としてのワーカーズ・コレクティブについて分析している。12の事例調査に基づいて「生協事業委託・取引型」と「地域サービス型」に類型化し,障害者の参加のあり方と経済基盤の強化についての課題を提起している。

 天野論文は「国際協力」というテーマについて日本の生協組合員によるユニセフ募金の取り組みを振り返るとともに,アジアの生協間の国際協力,とりわけアジア生協協力基金による自主的な協同組合づくりや女性や若者の協同組合参加の支援の取り組みをまとめ,今後の課題を提起している。

 このように本特集では国際協同組合年をめぐるさまざまなテーマについて日本の生協,協同組合の取り組みのあり方を検討している。このほかにも取り上げるべきテーマは多々あるが,国際協同組合年を単なるイベントに終わらせることなく,現代の社会経済のさまざまな問題に対する生協,協同組合の活動をさらに発展させ,その制度的環境の改善と「見える化」をすすめるという本来の課題を考える上での素材として活用していただきたい。

(栗本昭)

主な執筆者:富沢賢治,高木郁朗,伊丹謙太郎,北川太一,藤井敦史,天野晴元

目次

巻頭言
被災地を訪ねて(中川雄一郎)
特集:国際協同組合年に向けて
国際協同組合年の目指すもの(富沢賢治)
労働者自主福祉事業からみた協同組合の課題(高木郁朗)
賀川豊彦に学ぶ友愛社会と協同組合の可能性──公共哲学からのアプローチ──(伊丹謙太郎)
地域再生における協同組合の役割(北川太一)
ワーカーズ・コレクティブにおける社会的包摂──その実態と条件──(藤井敦史)
日本の生協の国際協力(天野晴元)
投稿
NPOによる市民大学運営と今後の方向性──かわさき市民アカデミーの事例から考える──(西山 拓)
震災と復興を考える(第2回)
被災地でのNGO / NPOの活動からみえる生協との連携の可能性(関 尚士)
シリーズ・現代社会と生協──国際協同組合年に向けて(3)
環境・資源問題と生協(大沢年一)
シリーズ・地域社会と生協の連携(11)
NPOに学び,地域と共に育つ──大阪いずみ市民生協の子育て分野での協働──(林美栄子)
海外のくらしと協同No.23
インドの生協の動向(中村良光)
コラム・残しておきたい協同のことば 第3回
ヴィクトール・エメ・フーバー(鈴木 岳)
新刊紹介・私の愛蔵書
神野直彦・宮本太郎編『自壊社会からの脱却──もう一つの日本への構想』(金子隆之)
長谷川毅著『暗闘 スターリン,トルーマンと日本降伏』(栗本 昭)
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