刊行物情報

生活協同組合研究 2011年5月号 Vol.424

特集:地域福祉──社会資源としての生活協同組合

 誰もが安心して人間らしいくらしを続けていくことができる地域を,地域に住む人たち自身による組織によってつくりあげる。地域福祉の視点は,生活協同組合の原理と根源的に共通する要素を多く持っている。

 しかし実際に地域福祉に関する主体として,生協が位置づけられることはこれまで限定的であった。あるいはその取り組みは,十分に可視化されてこなかった。宅配事業において配送を兼ねた見守り活動を自治体との連携の下,配送センター単位で実施していたり,店舗に併設した集会室で子育てひろばを組合員のボランティアで実施していたり,介護保険が導入される以前から,くらしの助け合いの会が制度化されていないニーズを発見し,満たしてきたり。実は生協は事業をとおして,あるいは組合員の自発的な活動として,様々な社会的課題,地域的課題に取り組んできたのではなかったか。各地の生協は声高に「社会貢献」を標榜することなく,組合員が望むこと,あるいは地域に必要なサービスを「あたりまえのこと」として生み出してきたのではないか。

 日本生協連が2010年10月に発行した「地域福祉研究会報告書」は,あらためて「地域福祉」を切り口に生協の果たすことのできる役割を提起している。詳細は実際の報告書からお読み取りいただきたいが,そのポイントは,地域における生協の活動を多くの人々の目に見えるようにすること,そのことが自治体や社会福祉協議会,NPOをはじめとした地域の諸団体との連携を生み出すこと,そしてそれが地域のニーズを埋めていくきっかけとなる,という循環をつくりだすことだろう。

 地域福祉研究会の座長でもあった上野谷加代子氏には,理論のみならず,計画と実践がともなう地域福祉の概念から,生協の特性を生かした展開まで,包括的にその方向性を考えるきっかけをいただいている。中島修氏には単に事業者ではない生協への力強い期待を述べていただいている。それにつづく3つの論文はまさに地域のニーズと交差した実践の中から生み出されたものである。小川泰子氏は高齢者福祉の実践をふまえつつ,多くの課題が見いだされはじめた「若者」へ,協同組合という仕組みがもつ有効性を考えさせるものである。吉岡尚志氏には今後絶対的に増加する一人暮らし高齢者の生活を,生協どうしが,公的機関と連携しながら支えていく取り組みを,そして村城正氏には,「お年寄りから子どもまで,みんなが安心して暮らせる地域や町」という考え方から生まれた高齢者福祉だけではない地域ケアの充実の実践を紹介いただいている。

 東日本大震災の被害はあまりにも甚大であり,かつ原発の問題も含め,長い時間が必要だろう。これまでの政策や考え方も大きく変わる。地域福祉の主体としての生協がどこまで地域に認知され,そのもてる力を地域に開放できるか,日常的にも問われていくだろう。

(山口浩平)

主な執筆者:上野谷加代子,中島 修,小川泰子,村城 正,吉岡尚志

目次

巻頭言
東日本大震災に寄せて(大石芳裕)
特集:地域福祉──社会資源としての生活協同組合
地域福祉の今日的課題と協同組合の可能性(上野谷加代子)
地域福祉の政策推進と生協への期待(中島 修)
あなたは次の世代に何を遺しますか?(小川泰子)
お年寄りから子どもまで みんなが安心して暮らせる町づくりをめざして──生協に求められる社会的役割と福祉事業──(村城 正)
杉並で進む「福祉のまちづくり」──孤独死のないまちをめざして──(吉岡尚志)
研究と調査
世帯属性別にみた野菜の購買行動に関する研究──地産地消の野菜と有機野菜をめぐって──(佐藤仁美・大野沙知子・持千歩・半谷まい・東 珠実・千頭 聡・森川高行・小田奈緒美)
シリーズ・現代社会と生協──国際協同組合年にむけて(2)
食料農業問題と生活協同組合(林 薫平)
震災と復興を考える(第1回)
大震災とTPP(石井勇人)
大震災とフードデザート(岩間信之)
SCMはあくまで「平時」のビジネスモデルである(藤井晴夫)
海外のくらしと協同No.22
米国の新・食品安全近代化法(デボラ・シュタインホフ(藤井晴夫訳))
コラム・残しておきたい協同のことば 第1回
シャルル・フーリエ(鈴木 岳)
私の愛蔵書
内田義彦『社会認識の歩み』,大江健三郎『ヒロシマ・ノート』(林 薫平)
本誌特集を読んで
研究所日誌

※「地域福祉研究会報告書」は日本生協連のウェブサイトからダウンロードできます。
http://jccu.coop/aboutus/data/pdf/area_report.pdf