海外報告
バスク協同組合視察報告【山崎 由希子】
●モンテ・イゲルドから見渡した
ラ・コンチャ湾とサン・セバスティアン市街地
趣旨・目的
スペイン・バスク地方の協同組合と関連組織、地方自治体の訪問
日程・訪問地
2016年5月1日~8日 スペイン・バスク地方
報告
2016年5月の第1週に日本生協連国際部主催の標記ツアーに参加させて頂きました。正式な訪問先(協同組合やその関連組織、地方自治体など)を中心とした報告は『生活協同組合研究』に譲り、ここでは視察旅行の間に見聞した美食の地バスクならではのおいしい食に関連する情報を紹介したいと思います。
バスク・ワイン
●イチャス・メンディのワインの数々
ワインはバスク政府もプロモーション支援をする特産品で、地ワインをバスク語で「チャコリ」と呼んでいます。チャコリは(赤ワインもありますが)白ワインが中心で、酸味が重要な要素だそうです。今回の視察ではビルバオにある比較的新しい(1980年代末~ワイナリーのイチャス・メンディ(Bodegas Itsasmendi)の広報の方から話を聴いたり、バスク地方の中でも優良なワインの産地として知られるリオハにある家族経営の歴史あるワイナリー(現在の当主であるJulián Ruiz氏は4代目、や大企業のワイナリー(マルケス・デ・リスカル)を訪問したりしました。
●家族経営ワイナリーのアルコール
発酵のためのタンク
印象に残っているのは、イチャス・メンディの開業の際には地域の雇用創出や産業振興も意識されており、「ないものを外から持ち込むのではなく、ここにあるもので作ることに意味がある」と言われていたことです。そして、チャコリの特性である酸味を売りに、国際的なコンクールで賞を取ったりと実績を積み重ねているそうです。アラバ県商工会議所の方の話によると、バスク・ワインは日本にも年間50万本輸出されており、毎年日本でプロモーションを行うようにしているとのことです。
●マルケス・デ・リスカル社の熟成樽の倉庫。
石壁の厚みは30センチほどあるそうです。
エロスキ生協
●店内の様子
エロスキは1969年に設立された職員と消費者の双方が出資するスペイン3位の小売り協同組合です。食品を中心として、旅行やスポーツ用品、眼鏡、ガソリン、保険、携帯電話の扱いも行っています。約2000の多様な業態の店でおよそ38500人の職員が働いています。ビジネスにあたって重視しているのは①より健康的な商品作りと、②地域の産品へのこだわりで、たとえば健康に良い新鮮な食品を提供するために地元の生産者との取引を優先しているそうです。経済的効率性だけを考えるならば、一生産者から大量に一種の産物を購入する方が良いのですが、たとえ手続きが煩雑になっても小規模で多数の生産者から、複数の産品を購入するといった取引を行っているとのこと。また、店舗の運営については、決定権は個々の店にあるそうで、地域の消費者の満足度を最優先してお店を作ろうとしているそうです。私たちが視察で訪問した店舗はハイパーマーケットと呼ばれる大型店舗で、店長は女性でした。
*エロスキ生協の最新の経営状況については『生活協同組合研究』16年8月号佐藤稿をご参照下さい。
●ネット注文商品をピックアップするボックス
●広報の方に話を聞いた店舗内スペース
美食クラブ
●入り口で迎えて下さっ
たエチェベリアさん
バスクには伝統的に美食クラブと呼ばれる美食を楽しむ会員制のグループが多数あり、かつては男性しか入れなかったそうです(現在は女性を受け入れるグループもあるようです)。
●テーブルに並んだ料理
モンドラゴン・グループ本部で広報の仕事をしているアンデル・エチェベリアさんがそのようなクラブの一員で、外部の人は入ることのできないクラブに私たちを招いて下さいました。このようなクラブではキッチンつきの部屋を所有しており、メンバーは(貸切の予約さえ入っていなければ)いつでも好きな時にその部屋に行き、他のメンバーと交流を楽しめるとのことです。エチェベリアさんの説明によると、彼の所属するクラブには60名弱のメンバーがおり、近年、女性にも門戸を開いたそうです(女性メンバーはまだ3~4名?くらい)。
●大きな牛肉のステーキも
バスクの名物
メンバーは会費を支払い、定期的に集まってグルメな食卓を囲むのですが、こだわりを感じたのは料理を他人に任せず、自分たちで食材の買い出し、調理から片づけまですることです。ただ、エチェベリアさんによると、古き良きクラブの伝統は徐々に失われつつあり、会費を滞納するメンバーや、部屋に置いてある飲み物を飲んだ場合には申告をする(飲み物の代金は個々のメンバー負担なのでPCに入力して計算する)ことになっているのに、しないメンバーが少なからず出てきているのだそうです。クラブは古い建物の一室なので電気系統のトラブル対応などもあり、伝統的なクラブの財政運営はなかなか大変なようでした。
ピンチョス&タパス(小皿料理)
●あるお店の中の様子
スペイン料理のタパスやピンチョスと呼ばれる小皿料理が日本でも人気のようですが、本場サン・セバスティアンでおいしい小皿料理を頂きました。サン・セバスティアンはもともと、ビスケー湾に面した有名な観光地で海の幸を使った料理でも知られていますが、近年はピンチョス(つまようじで差して一口で食べられるような小皿料理)の町としても観光客の誘致に力を入れているそうです。
●1軒目の小皿料理
ピンチョスは一つのお店で食事を済ませるというのではなく、一杯の飲み物と一皿か二皿の料理をつまんでまた次の店へ行き、それを何軒かはしごする、というのが一般的なマナーだそうですが、実際にやってみるとそんなにたくさん食べられるものではないというのがとても残念でした。
●2軒目の小皿料理。このお店には
ブルース・スプリングスティーンも
訪れたそうで、壁にサイン
がありました。
サン・セバスチャンの町には多くのピンチョスのお店がありますが、人気店にはやはり客が集中するようで、席に座れないのはもちろん、外でテーブルもなく、立ったまま皿と飲み物を両手に飲んだり食べたりと、なかなか忙しい状態でした。地元出身のアナさんに案内頂いたおかげでおいしい店を効率的に回ることができ、良い思い出になりました。
正式な訪問先の詳しい報告は『生活協同組合研究』に掲載予定です。ご期待ください!