刊行物
生活協同組合研究 2026年9月号 Vol.608
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憲法と私たちの日々の生活はどうつながっているのか

現時点ではメディアでそれほど大きな話題となっていないようであるが、現行の日本国憲法は11月に公布から80年を迎える。そこで本特集では、日本国憲法を取り上げ、それを抽象的な条文や制度としてではなく、私たちの日常生活、社会的弱者の尊厳、民主主義の実践に深く関わるものとしてとらえ直すことを試みる。本特集に収録されている論稿は、基本権、生存権、男女の平等、保育、刑務所出所者の社会復帰といったテーマを扱いながら、「憲法にある考え方を社会で実現するために、私たちにはどのような行動が可能か」という問いを投げかけている。
山崎友也氏の論稿は、基本的人権と基本権の区別を手はじめに、国家からの個人の自由だけでなく、国家が積極的に権利を保障する義務にも目を向ける。金沢市役所前広場事件を題材とする集会の自由の検討は、公共空間を誰のために開くのかという民主主義の根本的な問題を示し、死刑制度をめぐる考察は、刑罰権の限界と人権保障を国民自身がどう監視するかを問う。続いて尾藤廣喜氏の論稿は、憲法25条の生存権保障を、朝日訴訟から「いのちのとりで裁判」までの歩みの中で捉えている。生活保護基準引き下げをめぐる2025年最高裁判決の意義を踏まえ、健康で文化的な最低限度の生活が単なる政策目標ではなく、具体的な権利として実現されるべきことを訴えている。
また、武田万里子氏の論稿は、戦前の「家」制度から戦後の日本国憲法の個人の尊厳・男女平等への転換をたどり、夫婦同氏制度や選択的夫婦別姓、皇位継承をめぐる議論を検討する。社会が変化する中、憲法の理念からジェンダー平等のありようを問い直す必要性を明らかにしている。また川口創氏の論稿は、憲法13条の「個人の尊厳」を保育の現場に引き寄せ、読み解いてみせる。子どもを未完成の存在としてではなく、大人と同様にいまを生きる一人の人格として尊重すること、遊びや意見表明を保障すること、保育者や保護者の尊厳を含めた環境整備を行うことが、日々の保育における憲法実践であると教えている。彼谷環氏の論稿は、日本国憲法の平等保障と女性の政治参加の現状と課題、およびドイツにおけるジェンダー平等促進に関する議論について概観、日本における選挙制度の構造的問題だけでなく、高度経済成長期に確立した男性稼ぎ主モデルからの脱却を要請している。最後に平野美紀氏の論稿は、刑務所出所者の社会復帰支援を通じて、人権保障と再犯防止を結びつける実践を報告している。香川大学PROSの実践は、出所者を排除の対象ではなく地域で共に生きる人として受け止めることが、本人の更生だけでなく新たな被害を防ぐ社会的基盤になることを示している。
以上のように本特集は、憲法の価値を裁判所や国会の場だけのものとせず、日々の生活―自由な集会、生活保護の現場、家族関係、保育園や子育て、女性の政治参加、刑務所出所者の地域社会への包摂―と地続きのものとして考えることを訴えている。本特集が読者に、憲法を抽象的な理念として理解するだけでなく、日々の生活の中で憲法の考え方を「実践する」一助となれば幸いである。
(山崎由希子)
主な執筆者:山崎友也、尾藤廣喜、武田万里子、川口 創、彼谷 環、平野美紀
目次
- ●巻頭言
- 人的資本経営を人権から問い直す(禿 あや美)
- ●特集 憲法と私たちの日々の生活はどうつながっているのか
- 基本的人権・基本権・統制対象としての国家(山崎友也)
- 憲法の柱である生存権の考え方と私たちの生活(尾藤廣喜)
- 多様化する家族のありようと憲法(武田万里子)
- 保育と憲法── 一人ひとりを大切にする保育実践は憲法実践そのもの──(川口 創)
- 平等は実現したのか──女性の政治参加をめぐる憲法的課題──(彼谷 環)
- コラム 生きづらさを抱えた人の人権を考える:──香川大学生による刑務所出所者の「居場所と出番」づくりの試み──(平野美紀)
- ●アジアにかける虹の橋[第1回]
- フィリピン・アブラ州の農村における手織物業の技術と収入を 向上させるプロジェクト──アジア生協協力基金による助成を受けて実施した取り組み報告── (加川真美)
- ●本誌特集を読んで(2026・7)
- (吉谷 淳)
- ●新刊紹介
- 佐藤和宏著『戦後の住宅政策と民間貸家・家主─くいつぶし型経営の福祉社会学─』(原田玄機)
- 一般社団法人くらしサポート・ウィズ『「協同」を体験する 仕組みづくり─つながりインターンシップ@協同の実践─』(三浦一浩)
- 井桁大介・亀石倫子・谷口太規・丸山央里絵著『はじめての 公共訴訟─社会を動かす,私たちのツール─』(三浦一浩)
- ●研究所日誌
- ●公開研究会(来場・オンライン配信併用)「いま求められる学生支援と大学生協の関わり」(9/11)
- ●第35回全国研究集会(2026年11月12日)のご案内
- ●アジア生協協力基金2027年度・助成金一般公募のご案内
