刊行物
生活協同組合研究 2025年12月号 Vol.599
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消費者教育の現在~生協と学校・大学の連携の可能性~

●消費者教育の現在~生協と学校・大学の連携の可能性~
2012年に「消費者教育推進法」が制定され,消費者教育について,「消費者の自立を支援するために行われる消費生活に関する教育」であると同時に「消費者が主体的に消費者市民社会の形成に参画することの重要性に理解および関心を高めるための教育も含む」と定義された。同法制定の背景には,社会の変化に伴い,消費者行政の基本が「保護」から「自立支援」に変わったことがあり,2004年の「消費者保護基本法」から「消費者基本法」への改正,2007年の消費者団体訴訟制度の開始,2009年の消費者庁の設置などの流れに位置付けられる。自主的かつ合理的に行動できる消費者を育成するためには,消費者教育の更なる推進が必要というわけである。
生協は以前から消費者でもある組合員の教育に力を入れ,洗剤,食品添加物,農薬,環境問題,放射能など,その時々の社会問題や消費者の関心に応じて学習・教育活動を行い,消費者運動の一翼を担ってきた。近年は組合員だけでなく,各地で学校や地域と連携して,組合員や職員が授業を行うなどの事例も広がっている。
今回の特集では,大学,学校,消費者庁,消費者団体,研究者など様々な立場の方々に計8本の論稿・コラムの執筆をお願いし,消費者教育の現状と課題を概括,消費者教育推進法で消費者教育の担い手として位置づけられている学校・大学と消費者団体との連携事例を紹介し,消費者教育分野での生協と学校・大学等の連携を考える素材を提供したいと考えた。
西村論稿では,消費者教育の歴史と消費者教育推進法施行後の政策の変化,あらたな課題などについて解説いただいた。神山論稿では,学校の家庭科の中での消費者教育の現状と課題について紹介いただいた。大藪論稿では,18歳への成年年齢引き下げにより重要度が増した大学での消費者教育の必要性と岐阜大学での実践事例について詳しく紹介いただいた。平野論稿では,消費者教育の重要なキーワードである「消費者市民社会」と「シティズンシップ」,そして消費者に関わる政策の「保護」から「自立推進」への変化との関係性等について解説いただいた。中川論稿では,消費者庁が関係省庁,自治体,学校や専門家等と連携して取り組む消費者教育の内容について,米山論稿では,NACS(公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会)が取り組む消費者教育活動・事業と独自に開発された教材について紹介いただいた。茨城大学教育学部で家庭科教諭の養成に携わられている野中教授をコーディネータに,現役の家庭科教師3名による座談会を企画し,学校の教育現場での消費者教育の現状と課題,生協等とのコラボの可能性について語っていただいた。松尾コラムでは,いばらきコープで作成された「学校教育に役立つ学習ガイド」の発行に至る経緯とガイドの活用事例と課題について紹介いただいた。
本特集が,急速に変化する社会に求められる消費者教育について考え,生協がそれにどのように貢献できるのかを議論するきっかけとなれば幸いである。
(柳下 剛)
主な執筆者:西村隆男,神山久美,大藪千穂,中川壮一,米山眞梨子,平野寛弥,野中美津枝,植村 徹,西村牧子,若月温美,松尾 掌
目次
- ●巻頭言
- 複合危機の時代における生協~協同組合としての価値とあり方~(河田喜一)
- ●特集 消費者教育の現在~生協と学校・大学の連携の可能性~
- 消費者教育の過去・現在・未来(西村隆男)
- 学校における消費者教育の到達点と課題(神山久美)
- 大学における消費者教育の必要性──岐阜大学で取り組む事例から──(大藪千穂)
- 消費者庁が取り組む消費者教育について(中川壮一)
- NACSにおける消費者教育の実践と目指すもの(米山眞梨子)
- 消費者シティズンシップを涵養する──消費者教育の展望と課題──(平野寛弥)
- 座談会「学校の家庭科教育現場での消費者教育の課題と生協への期待」(野中美津枝・植村 徹・西村牧子・若月温美)
- コラム 消費者教育における生協と学校との連携について──『学校教育に役立つ学習ガイド』などの活用事例から──(松尾 掌)
- ●IYC2025の機会に協同組合の価値を再考する(第9回)
- くらしサポートウィズの取り組み── 一般社団法人くらしサポート・ウィズ専務理事 中根 裕さんに聞く──(柳下 剛)
- ●国際協同組合運動史(第45回)
- 1976年第26回パリICA大会(鈴木 岳)
- ●本誌特集を読んで(2025・10)
- (圓尾佐智子・天野博幸)
- ●新刊紹介
- 富永京子著『なぜ社会は変わるのか はじめての社会運動論』(三浦一浩)
- ●研究所日誌
