刊行物
生活協同組合研究 2025年6月号 Vol.593
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エシカル消費の現在地
エシカル消費は生協によっても非常に重要な概念であるが、この言葉の認知度は一向に向上していないことが様々な調査から指摘されている。生協総合研究所でも直近の2025年3月に、18歳から74歳までの男女を対象としたエシカル消費に関する独自調査を実施しているが、エシカル消費について「言葉も内容も知っている」と回答した割合は7.1%と極めて低い(図表1参照)。
認知度の向上が望まれるが、その一方で、そもそも消費者がエシカル消費について十分な理解が可能な状況であるのかという疑問も残る。消費者庁のウェブサイトではエシカル消費を「消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと」として紹介しているが、受け取り方によってはどのようにも理解できてしまう。
例えば、日本の食料自給率の低迷を社会的課題として考え、国産の農畜水産物を積極的に消費するといった行動も、この定義に従えばエシカル消費ということができるが、全ての国産の農畜水産物の消費をエシカル消費とすることにも違和感がある。消費者自身が社会的課題を意識しているかどうか、ということも重要な要件なのかもしれないが、これを要件とすると、同じ国産農畜水産物の消費でもエシカルな消費と非エシカルな消費が混在することになる上、消費者に社会的課題への意識があればどのような消費でも全てエシカル消費ということにもなる。
このようにエシカルの線引きは極めて難しい上、仮に線引きをしたとすると、ある消費をエシカルな消費とした場合には、そうでない消費は全て非エシカルな消費となってしまうのか、という問題もある。エシカル消費の事例として、有機・オーガニックが取り上げられることは多いが、それでは、非有機・非オーガニックのものは全て非エシカルな消費となってしまうのだろうか。線引きを明確にしてしまうとそれはそれで異なる問題が起きうることが容易に想像できる。
現在生協では、エシカル消費を強く推進する立場として、事業活動を実施しているが、この「エシカル消費」という概念は極めて扱いづらく、理解しづらいものであることを再認識する必要があるという問題意識がこの特集企画の出発点となっている。
渡辺稿では、エシカル消費をどのように捉え、深化させていけば良いかを考察していただいた内容となっている。上記で述べたようなエシカル消費の線引きに関する考え方についても触れていただいており、エシカル消費という概念について根本から考える貴重な論稿となっている。
玉置稿では、消費者のエシカル消費の購買要因に焦点を当て、消費者がどのような意識でもってエシカル消費を行っているか、関連研究に触れながら考察いただいている。こちらの論稿ではより理論的な部分にフォーカスを置いていただいた内容となっている。地頭所稿では、三菱食品株式会社で実施されたアンケート調査等から、定量的・定性的に消費者のエシカル消費に関連した意識についてのデータを用いて考察いただいている。こちらは実証部分によりフォーカスを置いた内容となっている。
実践例として、西田稿では欧州におけるエシカル消費に関連した取り組みを、宮田稿ではCO・OP 商品におけるエシカル消費対応に関連した取り組みについて紹介いただいている。欧州の各事業者におけるエシカル消費の取り組み方や、生協におけるエシカル消費の推進の考え方がより理解することができるような内容となっている。また、西田稿については、論稿の元となった報告書もあるため、関心がある方はそちらも合わせて御覧いただきたい。
本特集は、エシカル消費とは何なのか、その根本的な部分を改めて考える内容として構成している。組合員や消費者に率先してエシカル消費を広めていく役割を担うのが生協なのであれば、誰よりもエシカル消費について理解しておくべきであり、本特集がその一助となれば幸いである。エシカル消費をより深化させるにおいて生協が大きな役割を発揮することに期待したい。
(宮﨑 達郎)
出所) 生協総合研究所による18~74歳の男女を対象としたインターネット調査より(2025年3月実施)
主な執筆者:渡辺龍也、玉置 了、地頭所裕美、西田隆章、宮田 智
目次
- ●巻頭言
- 自社株買いと資本主義の変質(小栗崇資)
- ●エシカル消費の現在地
- エシカル消費──その拡大と深化──(渡辺龍也)
- 持続可能なエシカル消費に向けて──エシカル消費における消費者の購買要因とその課題──(玉置 了)
- おいしさと節約からはじまる持続可能な食消費の実践──生活者の行動とその動機に着目して──(地頭所裕美)
- 欧州におけるエシカル消費の取り組みについて(西田隆章)
- CO・OP商品におけるエシカル消費対応に関する戦略や方針(宮田 智)
- ●IYC2025の機会に協同組合の価値を再考する(第3回)
- コープ・ロンバルディアの自閉症に優しい店舗づくり(三浦一浩)
- ●国際協同組合運動史(第39回)
- 1963年第22回ボーンマスICA大会①(鈴木 岳)
- ●本誌特集を読んで(2025・4)
- (竹内広人・吉中由紀)
- ●研究所日誌
- ●公開研究会「生協による市民活動支援の現状と課題」(6/27)
- ●生協総研賞「第23回助成事業」の応募要領(抄)