刊行物

生活協同組合研究 2025年3月号 Vol.590

現役世代の孤独・孤立の実態と今後の社会のゆくえ

 2024年4月から「孤独・孤立対策推進法」が施行された。この法律は「孤独・孤立に悩む人を誰ひとり取り残さない社会」、「相互に支え合い、人と人との『つながり』が生まれる社会」を目指して、深刻化する孤独・孤立問題への対応を定めたものである。本法律において「孤独・孤立の状態は人生のあらゆる段階において何人にも生じ得るものであり(略)社会のあらゆる分野において孤独・孤立対策の推進を図ることが重要である(第2条第1項)」という認識が示され、国や地方公共団体が責任を持って、当事者や家族らの状況に応じた支援を行うことが政策課題とされた。

 孤独・孤立問題の中でも、本特集がとりわけ現役世代の問題に着目した理由は次の通りである。高齢層が人との接触が少なくなりがちで、孤独・孤立の状態に陥りやすいことは一般によく知られており、それゆえ政策的関心も高く向けられてきた。一方で、日常的に人との接触が少ないわけではない現役世代については、属性的に問題の少ない世代と認識され、政策的関心も向けられづらかった。しかし、例えば内閣官房が毎年実施している「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」が、高齢層よりも現役世代で孤独感が高いことを示しているように、孤独・孤立は決して人との接触頻度のみで測ることができず、現役世代も孤独・孤立問題の当事者である。

 このような背景から、本特集では6本の論稿を収録し、顕在化しづらかった現役世代の孤独・孤立問題に対する理解を深めたいと考えた。まず、孤独・孤立が広がった背景や、そもそも孤独・孤立とはどのような状況を指すのかという定義を丁寧に整理いただいた(宮本太郎稿)。次に、現役世代は子育てを担う世代とも言えるが、共生的な子育てを実現するためには、つながりの量だけでなく質が重要になることを論じていただいた(荒牧草平稿)。

 さらに、現役世代が家族やそれ以外の人々と、どのようなつながりを築いているのかについて実証データをもとに分析いただいたほか(石田光規稿、宮本みち子稿)、生協が孤独・孤立の予防や解決にどのように寄与できるのか、これまでの取り組みと今後の展望をまとめていただいた(前田昌宏稿)。最後に、孤独・孤立を惹起する要因として単身化や未婚化が挙げられることが多いが、シングルであることを必ずしもネガティブに捉えるのではなく、むしろ多くの人々がシングルであることを前提とした社会像を提起いただいた(荒川和久稿)。

 生協総合研究所では、2022年8月から、現役世代の孤独・孤立問題を調査するために、常設研究会を設置して研究を進めてきた。この研究会の成果は弊研究所刊行の『生協総研レポート』No.101にまとめられているので、関心のある方は本誌と併せてご覧いただきたい。本特集が、孤独・孤立に悩む人を誰一人取り残さない社会の実現に寄与すれば幸いである。

(中村 由香)

主な執筆者:宮本太郎、荒牧草平、石田光規、宮本みち子、前田昌宏、荒川和久

目次

巻頭言
二十一世紀の孤独・孤立(相馬直子)
特集 現役世代の孤独・孤立の実態と今後の社会のゆくえ
孤独・孤立対策とは何か(宮本太郎)
子育て世代の人づきあい:孤立から共生へ(荒牧草平)
現役世代の人づきあい:「人々のつながりの実態把握に関する調査」から(石田光規)
ひとり社会の自由と孤独:増加する東京ミドル期シングルの実態から(宮本みち子)
孤独・孤立の問題に生協はどのように対応できるのか(前田昌宏)
ソロ社会になる変化にあわせて:「一人でいても一人ではない」世界へ(荒川和久)
国際協同組合運動史(第36回)
1957年第20回ストックホルムICA大会②(鈴木 岳)
本誌特集を読んで(2025・1)
(樽井美樹子・手塚智子)
新刊紹介
権藤恭之『100歳は世界をどう見ているのか』(山崎由希子)
研究所日誌
公開研究会「生協総研賞・第21回助成事業論文報告会」(3/14)
公開研究会「居住支援と空き家活用──住宅のかたちを考える」(3/26)
公開研究会「日本の大学の学費と奨学金問題を考える」(4/22)
生協総研賞第15回表彰事業候補作品推薦のお願い
生協総研賞第15回表彰事業実施要領(抄)
2025年度「生協社会論」受講生募集