刊行物
生活協同組合研究 2025年1月号 Vol.588
気候危機に対応するために
近年、毎年のように豪雨災害や大型台風による災害が発生しており、気候変動の影響が気候危機といえるまでになっていることが実感される。農作物や水産業にも様々な影響が出ていることがしばしば報道されており、日本においても気候危機は決して他人ごとではない。2023年7月には国連のグテーレス事務総長が「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と、劇的かつ早急な気候アクションの必要性を訴えている。
気候危機は現代におけるもっとも重要かつグローバルな課題といえ、私たちの日々のくらしにも少なくない影響が出ているにもかかわらず、日本における関心は必ずしも高くない。気候変動対策をめぐって市民全体を巻き込んだ政策論議が起こっているとは残念ながらいえない状況にある。
いうまでもなく気候危機は現代を生きる私たちすべての課題であり、次の世代への責任でもある。決して一部の政治家や官僚に「お任せ」すればよい課題ではない。実際、グレタ・トゥーンベリや Fridays for Future の活動に代表されるように、世界的には市民の運動によって気候変動政策が進んできた。そうした市民による政策提言や市民活動、自治体レベルでの実践によって、足元から、草の根から取り組む気候変動対策こそが本来は重要であり、そうした市民による取り組みのなかで生協が果たし得る役割も小さくないはずである。
本特集ではそのような市民の目線に近いところから気候変動対策を考えることを目的に、それぞれの論点からの原稿をお寄せいただいた。市民視点から見た日本の気候エネルギー政策の転換の必要性(豊田稿)、自治体の取り組みや気候訴訟の展開といった社会運動としての取り組みの可能性(長谷川稿)、いわゆる緩和策と同時に必要になる気候変動への適応策(田中稿)、気候変動がもたらすそもそもの影響についての科学的知見(鬼頭稿)、世界的な取り組みの進展と日本の対策の遅れ(松下稿)など、各論考の指摘はいずれも気候変動やその対策を考えるうえで、特に市民の目線からそれらを見た際に重要な指摘を多く含むものとなっている。続くコラムでは、個々の事例として、自治体の取り組み(杉山稿)、生協の取り組み(高井稿)、市民団体の取り組み(山﨑稿)をそれぞれ紹介いただいており、今後、私たちが取り組みを進めるうえで示唆に富む内容となっている。
本特集が持続可能な未来をつくる取り組みのきっかけになれば幸いである。
(三浦一浩)
主な執筆者:豊田陽介、長谷川公一、田中 充、鬼頭昭雄、松下和夫、杉山範子、高井健史、山﨑求博
目次
- ●巻頭言
- 国際協同組合保険連合総会に参加して(和田寿昭)
- ●特集 気候危機に対応するために
- 日本の気候エネルギー政策の動向と転換をもとめる市民の取り組み(豊田陽介)
- 気候危機と社会運動(長谷川公一)
- 激化する気候変動影響への対策──適応策の方向性と課題──(田中 充)
- 地球温暖化がもたらすもの(鬼頭昭雄)
- 進行する気候危機と対策の緊急性(松下和夫)
- コラム1 気候変動に挑戦する地方自治体──世界気候エネルギー首長誓約──(杉山範子)
- コラム2 福井県民生協の気候変動対策(高井健史)
- コラム3 気候変動問題と歩んで四半世紀超~カーボンマイナスの街づくりに向けて(山﨑求博)
- ●国際協同組合運動史(第34回)
- 1954年第19回パリICA大会②(鈴木 岳)
- ●本誌特集を読んで(2024・11)
- (岩井祐一・有田芳子)
- ●新刊紹介
- ●研究所日誌
- ●公開研究会「消費者とはどのような存在か~その歴史的位置を考える~」(2/5)
- ●生協総研賞第15回表彰事業候補作品推薦のお願い
- ●生協総研賞第15回表彰事業実施要領(抄)