刊行物

生活協同組合研究 2024年12月号 Vol.587

コロナ禍を経て明らかになった地域の実情

 2020年からの新型コロナウイルス感染症のまん延は、私たちの生活に大きな影響を及ぼした。感染防止のためとして、マスクの着用、密を避けてソーシャルディスタンスを取ることから、緊急事態宣言・まん延防止等重点措置を経て、2023年5月にやっと新型コロナウイルス感染症が5類移行となり、社会的制限が解かれることになった。一時街から人の姿が消え、社会・経済の停滞を招く側面もあった。

 地域ではこれまでも困難と隣り合わせの状態で生活を送っている人がいたものの、必ずしも表面化していなかった。新型コロナ感染症の社会的影響により、仕事を失うなど生活の危機に直面してしまう人が多く発生した。筆者の住む街でも、コロナ特例貸付の給付を求めて、多くの人が社会福祉協議会の窓口を訪れ、とりわけ外国籍の人々が多数来たと聞いている。「この街にこのように多数の外国籍住民がいるのかと驚いた」と社協職員は述べていた。

 コロナの脅威が収まりつつある現在、地域の中でそれまでもあった諸問題は収まることなく、現在も続いており、超高齢化社会の中、多面的に表面化する事態は一層深刻化しつつあるとも言える。ちなみにわが街は、今年上半期で高齢化率が50%を突破し(全国平均は2023年29.1%)、全国有数の高齢化自治体となった。これは高齢者の増加が一つの要因だが、それ以上に15歳未満の子どもと生産年齢人口の減少が大きく影響している。今年生まれる子どもは全市で40~50人程度となる見込みで、小学校2クラス分にしかならず、市内7小学校の統廃合がまた議論になるであろう。

 この特集では、地域の実情を様々な角度から取り上げている。これらの課題を一つ一つ見ていくことも大切であるが、同時にすべてを包括して地域社会を理解する必要がある。地域共生社会づくりが大きな目標として掲げられている中、総合的に課題をとらえ、解決を考え、実践していくことが求められている。

 生協は「協同組合のアイデンティティに関するICA(国際協同組合同盟)声明」、第7原則「コミュニティへの関与」の実践を通して、地域社会との結びつきを強化してきた。2024年11月ICA総会で、この改訂議論も始まる。改めてこれから生協が地域社会で果たす役割を深めていきたい。

(茂垣達也)

主な執筆者:角崎洋平、小松理佐子、山根俊恵、山際 淳、内田由美子、伊東希実枝

目次

巻頭言
相続税を未来のために(麻生 幸)
特集 コロナ禍を経て明らかになった地域の実情
コロナ特例貸付からみえた暮らしを支える仕組みの脆弱性──地域と制度の課題──(角崎洋平)
民生委員・児童委員の「担い手不足」──制度の継承と発展への道筋──(小松理佐子)
ひきこもり伴走型支援「山根モデル」から「宇部モデル」へ(山根俊恵)
民間事業者等の活用による生活支援サービス拡充のあり方を考える
──厚生労働省令和5年度老健事業調査研究事業報告を中心に──(山際 淳)
コラム 自分たちの目指す理想の看多機を作る~医療生協さいたまケアセンターかがやき~(内田由美子・伊東希実枝)
時事評論
日本被団協のノーベル平和賞受賞に思う──生協もともに進めた被爆の記憶・証言と核兵器廃絶の訴え──(斎藤嘉璋)
国際協同組合運動史(第33回)
1954年第19回パリICA大会──日本からの参加者2人と原水爆禁止を含む平和決議の提案も──(鈴木 岳)
本誌特集を読んで(2024・10)
(北濱利弘・久保ゆりえ)
新刊紹介
向田映子『私たちは市民金融を作った』(三浦一浩)
研究所日誌
公開研究会「2024年度全国生協組合員意識調査概要報告」(12/12)
生協総研賞第15回表彰事業候補作品推薦のお願い
生協総研賞第15回表彰事業実施要領(抄)