刊行物
生活協同組合研究 2024年9月号 Vol.584
小売・物流における変革の方向性~人手不足社会を迎えた中で~
今年4月にかけて「物流2024年問題」が大きくクローズアップされたが、その本質は人口動態からくる「人手不足」の問題であろう。それへの対策として物流の「効率化・省力化」が求められている。本特集は人手不足社会を迎えた中で、小売・物流業はどのような方向に舵を切っていくべきかについて考える材料を提供できれば…と企画した。
学習院大学教授の河合亜矢子氏は、小売業界の抱える様々な課題に触れつつ、日本小売業協会における流通サプライチェーン改革の取り組みについて紹介している。「全体最適」を目指して政府と産業(製造・物流・小売)、学術という三者連携が進展していることに首肯するとともに、生協陣営もその輪の中に入っていければ…と思われた。
中央大学大学院教授の中村博氏は、小売業におけるDX推進をテーマに「お財布シェア」の観点から論説している。何とお財布シェアが最も高い小売業は「生協の個人宅配」であり、「PB」が「高いブランド価値」を提供していることが背景にあるとのことである。
物流コンサルタントとして活躍する小野塚征志氏は、物流2024年問題への「処方箋」について論じている。現実的な解となるのは「時間あたりに運べる量を増やすトラック積載率の向上」であろうが、小売側も“着荷主”としてできうる協力をすべきであろう。
神戸大学大学院准教授の平田燕奈氏は、物流効率化を求めた究極的な姿としての「フィジカルインターネットの現状と将来展望」について解説している。日本でも2040年までの実用化を目指して政府と民間が一体となった研究が進められており、今後に期待がもたれる。
小売業のDX活用に詳しい郡司昇氏は最前線の事例を紹介している。小売業のDXは必ずしも大規模投資を前提とするものではなく、店舗における体験価値の創出など中小規模の小売業であっても取り組める余地は大きいとのことである。
最後に生協陣営の物流を支えるシーエックスカーゴにおける効率化の取り組みについて取材した。調べてみると物流2024年問題が話題となるはるか以前から「パレット自動倉庫」「AGV(無人搬送車)」等を導入していた事実を知り、やや驚くとともに誇らしいと思った。
本特集は「小売・物流における変革の方向性~人手不足社会を迎えた中で」と題し、「合理化・効率化」の重要性が導き出されることを想定したものであったが、寄稿された論文を読み、小売業におけるDX推進においては「顧客満足度向上」「顧客体験価値の創造」もまた重要であると改めて考えさせられる面もあった。
(西尾 由)
主な執筆者:河合亜矢子、中村 博、小野塚征志、平田燕奈、郡司 昇、佐藤 豊、西尾 由
目次
- ●巻頭言
- 蝶を集めるには、花を育てよ~働きやすさと働きがい~(當具伸一)
- ●特集 小売・物流における変革の方向性~人手不足社会を迎えた中で~
- 小売業のサプライチェーン改革──競争から共創へ──(河合亜矢子)
- 小売業のDXは顧客ロイヤルティを高めるか?(中村 博)
- 2024年問題と物流革新の必要性(小野塚征志)
- フィジカルインターネットの現状と将来展望(平田燕奈)
- 顧客体験の革新が小売業DXの本質──データとデジタル技術を活用した顧客理解が業績を左右する時代へ──(郡司 昇)
- 生協における物流効率化の取り組み(佐藤 豊(聞き手:西尾 由))
- ●国際協同組合運動史(第30回)
- 1948年第17回プラハICA大会(鈴木 岳)
- ●本誌特集を読んで(2024・7)
- (荻原妙子・中島智人)
- ●新刊紹介
- 神野直彦著『財政と民主主義─人間が信頼し合える社会へ』(山崎由希子)
- ●新刊紹介
- 戒能民江、堀千鶴子編著『困難を抱える女性を支える Q&A─女性支援法をどう活かすか─』(山崎由希子)
- ●研究所日誌
- ●9月12日開催アジア生協協力基金活動報告会
- ●公開研究会「現役世代の孤独・孤立の実態と今後の社会のゆくえ」(10/3)
- ●11月30日第33回全国研究集会〈開催予告〉「地域からつむぐ協同組合のアイデンティティと明日」
- ●アジア生協協力基金2025年度・助成金一般公募のご案内