刊行物
生活協同組合研究 2024年8月号 Vol.583
生産者と消費者のつながりが創る新たな農畜水産業の可能性
2024年2月16日に日本生活協同組合連合会より第11回の全国生協産直調査の調査結果が報告された。その中で、「共創のプラットフォームをめざして」という言葉で、生産から消費までの全ての関係者が一体となり、新たな価値を創る仕組みを生協産直が改めて目指していくことが確認されている。近年、農畜水産業の分野では燃料・肥料・飼料等の生産資材の価格高騰や担い手の問題があり、消費者の目線では食料品を含めた様々な生活必需品の物価高騰により生計が圧迫されている状況がある。こうした厳しい状況の中で、生協産直を初めとした生協の取り組みがどのような課題解決の方法を提案していけるのかが注目される。
本特集では、第11回全国生協産直調査の調査結果で取り上げられたいくつかのトピックに関連した論稿を集め、生協の取り組みにとってヒントになるような知見を収集することを目的としている。
まず、波夛野・飯尾・藤本稿ではCSA(Community Supported Agriculture)を題材として、生産者と消費者のつながりの価値を考察いただいた。食や農を介して、そこに関係する人々が近づくことにどのような意味があるのか、その根本的な価値を改めて整理いただいた。
また、生鮮品の需給調整については、生協産直を含め生協の事業においての重要な課題であり続けている。池田稿では生鮮野菜を題材として、スーパー、外食チェーン、生協、カット野菜流通における需給調整の特徴や課題を整理いただいた。
生産者が加工品の開発・生産に取り組み、生協においてそれが販売されるという動きも強くなってきている。多面的な経営に取り組む生産者が増える中で、大西稿では6次産業化を題材としてその現状や課題を整理するとともに、生産者と消費者のつながりが6次産業化の動きに与える影響を考察いただいた。
産地交流の取り組みについては、コロナ禍によりオンラインによる交流が一般化しつつある。今回は東都生協によるオンライン交流の取り組みの手法やその成果・課題について奥山稿で整理いただいた。オンライン交流はリアルの交流とは大きく性格の異なる部分はあるものの、生産者と消費者のつながりを創る上でどのような役割が果たしていけるのか、期待も大きい。
末尾の宮﨑稿では、第11回生協産直調査の調査結果を概説しつつ、組合員の生協産直に対する関わり方について整理した。生協産直の現状を示すデータとして確認しつつ、より強い関心を持たれた方は是非公表されている報告書の方も御覧いただければと思う。
(宮﨑達郎)
主な執筆者:波夛野豪、飯尾裕光、藤本穣彦、池田真志、大西千絵、奥山栄一、宮﨑達郎
目次
- ●巻頭言
- ローカルな知恵をグローバルに活かす(生源寺眞一)
- ●特集 生産者と消費者のつながりが創る新たな農畜水産業の可能性
- CSAの実践にみる生産者と消費者の〈つながり〉の価値(波夛野豪・飯尾裕光・藤本穣彦)
- 生鮮野菜流通における需給調整の方法(池田真志)
- 生産者と消費者の交流が6次産業化にもたらす効果(大西千絵)
- 生協産直におけるオンライン交流の取り組み事例報告と展望(奥山栄一)
- 生協産直の現在と組合員の生協産直に対する関わり方 ─第11回全国生協産直調査より─(宮﨑達郎)
- ●国際協同組合運動史(第29回)
- 1946年第16回チューリッヒICA大会(鈴木 岳)
- ●本誌特集を読んで(2024・6)
- (栗田克紀)
- ●私の愛蔵書
- 市民政調 選挙制度検討プロジェクトチーム・片木 淳『公職選挙法の廃止──さあはじめよう市民の選挙運動』(三浦一浩)
- ●研究所日誌
- ●公開研究会「戦争と平和をめぐる協同組合・生協の歴史から学ぶこと」(8/28)
- ●9月12日開催アジア生協協力基金活動報告会
- ●公開研究会「現役世代の孤独・孤立の実態と今後の社会のゆくえ」(10/3)
- ●11月30日第33回全国研究集会〈開催予告〉
- ●アジア生協協力基金2025年度・助成金一般公募のご案内