刊行物
生活協同組合研究 2024年7月号 Vol.582
市民社会による政策提言
私たちの社会の中に、政府や、市場、また家族などの親密圏などと対比され、そのいずれでもない社会活動領域が存在することは広く認知されるようになった。狭義の NPO 法人だけでなく、協同組合を含む営利を目的としない多様な団体が包含されるこの領域を市民社会と呼ぶことができるが、政治や経済、人々の関係性などが大きく変容するなかで、市民社会で活動する多様な組織・団体がそれぞれに活動を広げ、地域や社会の諸課題に取り組むことを通じて、公共的役割を担っていることが様々な研究によって示されるようになっている。
その、市民社会には大きく「アドボカシー機能」「サービス供給機能」「市民育成機能」という3つの機能があるとされる。「アドボカシー」はやや聞きなれない概念かもしれないが、公共政策や世論に影響を与えるために政治や社会に働きかけることを意味し、政策提言などのような言葉に置き換えて使われることも多い。アドボカシーは政治、経済、社会を変革する原動力となり、民主主義を活性化させるだけでなく、市民社会を強化し豊かにしていく上でも重要な活動といえる。
本特集ではこの市民社会によるアドボカシーを取り上げた。市民社会の現状や近年の状況を踏まえたうえで、市民社会におけるアドボカシー活動の位置を整理するとともに(坪郷稿)、近年のアドボカシーの好事例である労働者協同組合法(石澤稿)、埼玉県ケアラー支援条例(堀越稿)の制定に向けた取り組みの経緯や特徴を検証している。とくに国政においてはこうした取り組みは市民立法として位置づけることができるが、その近年の動向の検証からは難しさや課題も浮かび上がってくる(勝田稿)。「香害」の事例からは、そもそも幅広く訴え、社会的な課題としての認知を得ることの重要性を読み解くことができる(大和田稿)。また、狭義の NPO だけでなく、生活協同組合でも歴史的に見ても様々な取り組みが行われている(拙稿)。
ある生協の年史に「この活動の中に政治と無関係のものはひとつもない」と書かれていたことが印象に残っている。アドボカシーに取り組むことはどこかの段階で政治に関わることが避けられないが、そのことは決して生協と無縁であることを意味するのではない。生協にも問題意識をもってアドボカシー活動に取り組み、組合員のくらしの身近にある課題を広く社会に訴えかけてもらいたいと願っている。
(三浦一浩)
主な執筆者:坪郷 實、石澤香哉子、堀越栄子、勝田美穂、大和田悠太、三浦一浩
目次
- ●巻頭言
- NPOの原点は「現場」と「ひと」~小さな離島の自然保護NPOから考える~(長畑 誠)
- ●特集 市民社会による政策提言
- 市民活動とアドボカシー(坪郷 實)
- 市民立法としての労働者協同組合法(石澤香哉子)
- 市民と議員がつくった埼玉県ケアラー支援条例 ──日本ケアラー連盟の政策提言活動をベースに── (堀越栄子)
- 市民立法とは何か ──今日の動向を中心に──(勝田美穂)
- 「香害」をめぐる市民社会のアドボカシー(大和田悠太)
- 生協によるアドボカシー活動を考える (三浦一浩)
- ●国際協同組合運動史(第28回)
- 国際協同組合同盟(ICA)大会の再開に向けて②(鈴木 岳)
- ●本誌特集を読んで(2024・5)
- (齋藤優子・中里英樹)
- ●私の愛蔵書
- 中山 淳 著『Jリーグを使ってみませんか <地域に笑顔を増やす驚きの活動例>』(柳下 剛)
- ●研究所日誌
- ●公開研究会「戦争と平和をめぐる協同組合・生協の歴史から学ぶこと」(8/28)
- ●生協総研賞「第22回助成事業」の応募要領(抄)