刊行物
生活協同組合研究 2024年6月号 Vol.581
生活困窮者支援のあり方を考える
2013年12月に生活保護法の改正とあわせて「生活困窮者自立支援法」が制定された。この法律では「生活困窮者」を「就労の状況、心身の状況、地域社会との関係性その他事情により、現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」と定義している。本法律にもとづき2015年4月に「生活困窮者自立支援制度」がスタートし、既存の制度では十分に対応できなかった生活保護に至る前の段階の生活困窮者に対し、自立の促進を図ることを目的として様々な措置が講じられるようになった。
これら法制度ができた背景には、経済的な困窮をはじめとして、住まいの確保、家族の課題、家計の課題、債務、社会的孤立、就労の課題など、生活困窮者の抱える課題が複雑で多様化していることがある。複雑に絡み合った課題に対応するためには生活全般にわたる包括的な支援が必要となることから、現在、全国の自治体で自立相談支援事業や、住宅確保給付金の支給、就労準備支援事業、家計改善支援事業など、多岐にわたる支援が行われている。
しかしながら、現行の生活困窮者支援をめぐっては、その問題を指摘する声もある。例えば、生活困窮者自立支援法が、生活保護改正と抱き合わせで上程されたことにより「最後の安全網」として頼れる生活保護が後退したのではないかという意見がある。ほかにも「自立」というラベリングによって、福祉の拡大を抑止する意図があるのではないかという意見もある。
このような問題について丁寧に紐解いてみようと、本特集では5名の研究者に論稿を執筆いただいた。また、2018年9月に「居住支援法人」の指定を受け、住宅確保要配慮者(低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯など)を対象に住まいのサポートに取り組んでいる生活クラブ東京への取材稿も収録した。
現在、全国の多くの生協が生活困窮者支援に取り組んでいる。収録した論稿でも指摘されている通り、生活困窮者支援において今後重要になるのは「支援される者」と「支援する者」を超えた協同的な関係をいかに作れるかという点であろう。協同的な関係の構築は生協が重視してきたことであり、強みでもあるはずだ。生活困窮者支援の担い手として、生協がより一層、力を発揮するためにはどうすれば良いか。本特集を素材に、議論が進めば幸いである。
(中村 由香)
主な執筆者:岩田正美、丸山里美、櫻井純理、五石敬路、似内遼一、赤坂禎博、石原由理子、中村由香、三浦一浩
目次
- ●巻頭言
- 人口減少社会における自動運転と移動の権利(中林真理子)
- ●特集 生活困窮者支援のあり方を考える
- 生活困窮者支援とはなにか(岩田正美)
- 女性の生活困窮者支援(丸山里美)
- 生活困窮者支援における地域レベルでの就労支援──生協系団体による認定就労訓練──(櫻井純理)
- 自立支援論の系譜──岡村重夫、仲村優一、白沢久一、大橋謙策──(五石敬路)
- アメリカにおける「サードアーム」による低所得層向けアフォーダブル住宅の整備とその事業化(似内遼一)
- コラム 生活クラブ東京の居住支援の取り組み(赤坂禎博・石原由理子〈聞き手:中村由香・三浦一浩〉)
- ●国際協同組合運動史(第27回)
- 国際協同組合同盟(ICA)大会の再開に向けて①(鈴木 岳)
- ●本誌特集を読んで(2024・4)
- (岩城由紀子・友田さゆり)
- ●研究所日誌
- ●公開研究会「社会的連帯経済の動向を認識するために」(7/11)
- ●生協総研賞「第22回助成事業」の応募要領(抄)