刊行物

生活協同組合研究 2024年3月号 Vol.578

健康寿命の延伸のために

 「健康寿命」とは介護等に依存せずに自分の心身で自立した生活を営むことができる期間である。平均寿命と健康寿命との差は男性で約9年、女性で12年ある。高齢社会が進む中、食事・運動・睡眠・歯の衛生等に留意することで健康寿命を延ばしていくことがますます肝要となっている。健康は生協の組合員にとっても関心の高いテーマであり、多くの生協において組合員活動の一環として各種の健康づくりの取り組みが行われている。今号ではそうした取り組みをしている生協の組合員や担当者が、健康づくりに役立つ知識や理解を深められるようにと、以下のとおり、各識者に寄稿を依頼した。

 東京大学 高齢社会総合研究機構 機構長で未来ビジョン研究センター教授の飯島勝矢氏には「地域で取り組むフレイル予防」として、フレイルの概論からその予防のための具体的な取り組みについて全般的に論じていただいた。フレイルには「社会的な人とのつながり」が大きく影響していることから、フレイル予防において生協の健康づくりの取り組みが果たせる役割は決して小さくないであろう。

 弘前大学大学院 医学研究科特任教授の中路重之氏等には「ビッグデータを活用した新しい健康増進活動」と題して、青森県で県を挙げて取り組んでいる各種施策について紹介いただいた。特に「QOL 健診」と健康教育等のヘルスリテラシー向上の取り組みは、必ずや青森県の平均寿命最下位からの脱出と健康寿命延伸をもたらすであろうと感じさせる。

 順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科教授の町田修一氏には、フレイルの主因となる筋肉減弱症(サルコペニア)をはじめとして各種疾病の予防に効果がある「筋活(筋肉の維持増進)」の重要性とその具体的な方法を中心に論じていただいた。

 続いて「食」の重要性に関して、大妻女子大学 家政学部教授の青江誠一郎氏には意外と知られていないと思われる「食物繊維」の有効性にスポットを当てた論考をいただいた。また同じく「食事」の観点から国立長寿医療研究センター研究所 老化疫学研究部部長 大塚礼氏には「認知症予防」、東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム 本川佳子氏には「フレイル対策」にスポットを当ててご執筆いただいた。いずれの論文においても様々な種類の食物を摂取することが健康に有効であることが共通して述べられている。

 最後に各地の生協による健康づくりの取り組みと「CO・OP 共済健康づくり支援企画」についてコープ共済連 組合員参加推進部の田中美樹部長より紹介いただいた。

 今般特集号が組合員の健康寿命延伸の一助となることを願うものである。

(西尾 由)

主な執筆者:飯島勝矢、中路重之、村下公一、三上達也、町田修一、青江誠一郎、大塚 礼、本川佳子、田中美樹

目次

巻頭言
先祖代々の墓が消える!?(岩田三代)
特集 健康寿命の延伸のために
地域で取り組むフレイル予防──健康長寿と幸福長寿の実現に向けて──(中路重之・村下公一・三上達也)
ビッグデータを活用した新しい健康増進活動(町田修一)
筋活で延ばす健康寿命(青江誠一郎)
食物繊維の健康寿命への効用(大塚 礼)
食生活からの認知症予防(本川佳子)
食生活によるフレイル対策(田中美樹)
「CO・OP共済 健康づくり支援企画」から考える生協の「健康づくり」の取り組みについて
研究と調査
芸術従事者の協同組合モデル──現代美術における芸術従事者の活動環境に資する連帯──(木原 進)
国際協同組合運動史(第24回)
戦時下における国際協同組合同盟(ICA)①(鈴木 岳)
本誌特集を読んで(2024・1)
(大木 茂・北川太一)
新刊紹介
野口敬夫・曹斌編著『農業協同組合の組織・事業とその展開方向 ─多様化する農業経営への対応』(三浦一浩)
研究所日誌
公開研究会「生協総研賞・第20回助成事業論文報告会」(3/15)
「生協社会論」受講生募集
〈刊行案内〉『生協総研レポート』No.100
『生協総研レポート』100号の軌跡