刊行物

生活協同組合研究 2024年2月号 Vol.577

消費者への情報提供とコミュニケーションの在り方を考える

 本特集では、消費者への情報提供とコミュニケーションをテーマとしている。なお、コミュニケーションというと双方向的な性質を持つものも考えられるが、本特集ではどちらかといえば、企業から消費者へという一方向の性質のものを想定している。

 消費者への情報提供やコミュニケーションが重要になっている背景として、2022年以降、食料を含めた様々な財の物価が急激に上昇していることが挙げられる。2020年平均を100とした場合の食料の消費者物価指数は、2022年1月時点では102.0であったが、公表されているうち最も直近の2023年11月時点では115.6となった。生協については、元々「価格が高い」というイメージが持たれやすい傾向があることもあり、物価上昇への対応を含め、生協の商品やサービス、取り組みの価値を組合員、そしてまだ未利用の消費者に丁寧に伝えていくことが、より一層重要になってきている。

 こうした状況を踏まえ、本特集では消費者への情報提供やコミュニケーションに関連した原稿を集めている。田部稿では、企業の代表的なコミュニケーション手段である広告の機能や役割について整理いただいた。これからの広告コミュニケーションでは何を重視して、どのような方法を採用していくべきなのか、考えるきっかけになるだろう。

 小林稿では、企業と消費者のコミュニケーションに関する最新の調査結果から、新しいコミュニケーション技術に対する消費者の反応等を紹介しつつ、顧客体験を改善していくようなコミュニケーションを目指す上ではそれを評価するための指標が必要であるとして、「コミュニケーション体験評価(COMX)」という指標を紹介いただいている。

 西尾稿では、サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に向けて、企業のマーケティング展開方法と消費者コミュニケーションに求められる要素について考察いただいている。サーキュラーエコノミーは生協の事業とも強く関連する考え方であり、紹介いただいているパナソニック株式会社の事例についても非常に参考になるだろう。

 小泉稿では、リスクコミュニケーションの在り方として、ゲノム編集食品を題材にその理解を深めるために必要な知見を整理いただいた。ゲノム編集食品を含めた、新しくかつ複雑な技術が次々に登場してくるわけではあるが、リスクコミュニケーションの前提としてまずは技術そのものに対する理解を深めることの重要性を指摘いただいた。

 末尾には、日本生協連「2022年度デジタルコミュニケーションタスクフォース若年層調査」の結果から、生協未利用者を含む消費者の生協のイメージと生協との接点の関係について考察した原稿も掲載している。本特集が改めて、組合員や消費者への情報提供やコミュニケーションの在り方を考えるきっかけとなることを期待する。

(宮﨑 達郎)

主な執筆者:田部渓哉、小林聖和、西尾チヅル、高山美和、小泉 望、宮﨑達郎

目次

巻頭言
自由からの逃走(神野直彦)
特集 消費者への情報提供とコミュニケーションの在り方を考える
広告コミュニケーションを取り巻く現状と期待される機能(田部渓哉)
“コミュニケーション”から改善する顧客体験(CX)──「消費者と企業のコミュニケーション実態調査 2023-2024」徹底解説──(小林聖和)
サーキュラーエコノミーと消費者コミュニケーション(西尾チヅル・高山美和)
ゲノム編集食品のリスクコミュニケーション(小泉 望)
生協のイメージ形成と消費者との接点の関係──2022年度デジタルコミュニケーションタスクフォース若年層調査の結果から──(宮﨑達郎)
研究と調査
大学生協学生委員会における学びと成長の学習構造(難波博史)
国際協同組合運動史(第23回)
国際協同組合同盟(ICA)1937年第15回パリ大会②(鈴木 岳)
本誌特集を読んで(2023・12)
(本間紀子・小塚和行)
研究所日誌
公開研究会「生協総研賞・第20回助成事業論文報告会」(3/15)
「生協社会論」受講生募集