刊行物

生活協同組合研究 2023年11月号 Vol.574

100年前の生協:消費組合運動の広がりと関東大震災

 1923(大正12)年9月1日11時58分、相模湾北西部を震源とするマグニチュード7.9と推定される大地震が発生した。現在の埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県で震度6を観測(震度7の導入は1949年)、10万棟を超える家屋が倒潰したほか、発生が昼食の時間と重なったことから、大規模な火災が広がった。被害はこの東京の火災によるものだけではなく、液状化や津波、土砂災害などが広範囲にわたって記録されている。本震発生後のいわゆる余震も規模が大きなものも含め、多数発生した。住宅の被害は37万棟、その9割が焼死だといわれる死者・行方不明者は約10万5000人に及ぶほか、55億円といわれるその経済被害は当時のGDP 比で37%にもなる。阪神・淡路大震災や東日本大震災といった近年の大震災と比べても、その被害規模や社会経済的なインパクトは極めて大きかった。

 2023年はこの関東大震災の発生から100年の節目の年となる。上述の通り、日本の災害史においても特筆すべき災害である一方で、震災後の混乱の中、それに乗ずる形で引き起こされた大杉栄・伊藤野枝らの殺害や朝鮮人虐殺事件などもあり、それは単なる「自然災害」ではなかった。流言飛語が飛び交う中、多くの朝鮮半島出身者が虐殺された後者は、日本社会にある差別や暴力を考えるうえでも直視せざるをえない問題であり、近年、一部の政治家がその歴史的事実を無視するかのような行動をとっていることは強く非難されなければならない。

 今号の特集では、この関東大震災の社会的影響について、消費組合と呼ばれることが多かった当時の生協の活動を通して考える。「生協の父」賀川豊彦は関東大震災を機に東京で活動するようになるが、それは単なる活動拠点の移転以上の意味を持つものであった(伊丹稿)。また、震災後の混乱の中で引き起こされた事件の一つである亀戸事件で殺害された平沢計七は日本の生協運動のパイオニアの一人であった(大和田稿)。こうした直接的なもののほか、各組合の活動に関東大震災はどのような影響を与えたか、また、そもそも当時の消費組合運動はどのような状況であったのかといった点についても紹介、検討が行われている(斎藤稿、小嶋稿)。消費組合による被災者支援の取り組み状況(尾崎稿)とあわせ、100年前の生協運動の状況を知る機会にしていただければ幸いである。それは現在の生協を考えるうえでも欠かせない様々な視点を提供してくれるであろう。

(三浦一浩)

主な執筆者:伊丹謙太郎、斎藤嘉璋、大和田茂、小嶋 翔、尾崎智子

目次

巻頭言
くらしの願いに寄り添い、「ともに」の力で未来へ(熊﨑 伸)
特集 100年前の生協:消費組合運動の広がりと関東大震災
賀川豊彦の3つの時代と関東大震災(伊丹謙太郎)
大正デモクラシーと新興消費組合の時代(斎藤嘉璋)
消費組合共働社と平沢計七──亀戸事件100年からの検証──(大和田茂)
戦前最大の生協、家庭購買組合(小嶋 翔)
関東大震災とボランティア──他団体と消費組合の活動を比較して──(尾崎智子)
国際協同組合運動史(第20回)
国際協同組合同盟(ICA)1934年第14回ロンドン大会開催までの経緯とドイツ問題(鈴木 岳)
本誌特集を読んで(2023・9)
(髙橋 健・高木英孝)
研究所日誌
2023年度生協総研賞・第21回助成事業対象者決定のお知らせ
2023年度生協総研賞 第14回「表彰事業」受賞式のご案内(12/1)
公開研究会「英国とフランスの協同組合の要人より」(12/20)