刊行物

生活協同組合研究 2023年10月号 Vol.573

子育て支援の現状と今後の展望─子育て家庭の「孤立」をどう防ぐのか─

 今日の日本社会では、子どものいる世帯はマイノリティとなった。厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、調査が始まった1986年には「児童(18歳未満の未婚の者)のいる世帯」は全世帯の46.2%と約半数を占めていたが、2022年には18.3%と大幅に減少している。また、総務省「国勢調査」で総人口に占める「子ども(15歳未満)」の割合をみても、1950年には人口の約3人に1人だった子どもは、2022年では約9人に1人となっている。

 このように、子どものいる世帯が少数派となり、子どもの割合も低下するなど、子どもを取り巻く環境は大きく変化した。こういった変化に伴い、社会が子育てに対する寛容さを失いつつある。「子どもの声がうるさい」という近隣住民の反対で保育所開設を断念したというニュースや、「大声を出さない、走り回らない」といった注意事項を掲げる公園が増えているというニュースが報道されているように、他人に迷惑をかけることを回避して子育てをすることが求められている。このような社会では、親は子どもが迷惑をかけないように常に気を配らなければならず、子育てに関する不安や困り事があっても他人に助けを求めづらい。この状況に拍車をかけるように、子どもや保護者が交流する場や子育ての相談にのる支援の場がコロナ禍で縮小されたこともあり、子育て家庭の「孤立」が深刻化している。

 子育て家庭の「孤立」をどう防ぐのか。その方策を考えるべく、本特集では5本の論稿を収録した。現在の日本では、なぜ子育てが辛い営みとなり、孤立・孤独の原因になってしまうのかという社会的背景を紐解(ひもと)きつつ(宮本稿)、3年に及んだコロナ禍が、子育て家庭の孤立にどのような影響を与えたのかを論じていただいた(榊原稿)。

 また、子育て家庭がつながり、気軽に相談し合える方法としてIT・SNS 利用の意義と可能性を提起いただいたほか(石井稿)、東京都世田谷区を事例に、地域全体で子育ての「協同」に取り組む様子をまとめていただいた(相馬・松田稿)。さらには、東京都板橋区の自由保育園に注目し、戦後間もない時期から「協同」で保育がなされてきた歩みを振り返ることで、「協同」を担う存在としての生協の意義や可能性について論じている(三浦稿)。

 あらためて言うまでもなく、生協の理念において重要なのは「協同」という概念である。子育て中の人々も、そうでない人々も「協同」して子どもを育む社会を創るために、生協がどのような役割を果たすことができるだろうか。本特集が子育て支援の分野における生協の今後の役割や可能性を考えるきっかけとなれば幸いである。

(中村 由香)

主な執筆者:宮本みち子、榊原智子、石井クンツ昌子、相馬直子、松田妙子、三浦一浩

目次

巻頭言
子どもや若者の居場所(天野恵美子)
特集 子育て支援の現状と今後の展望─子育て家庭の「孤立」をどう防ぐのか─
子育てをめぐる孤立と孤独(宮本みち子)
深刻化する子育ての孤立と解決のカギ──少子化対策を超えて,全ての親と子を支える「共同養育」の社会へ──(榊原智子)
子育て支援におけるIT機器・SNS利用の意義と可能性(石井クンツ昌子)
地域づくりとしての育児の「協同」──ケアリング・デモクラシーをめぐる世田谷の実践──(相馬直子・松田妙子)
「生活の協同」としての保育──戦後初期における東京自由保育園の事例から──(三浦一浩)
国際協同組合運動史(第19回)
国際協同組合同盟(ICA)1930年第13回ウィーン大会②(鈴木 岳)
本誌特集を読んで(2023・8)
(小野 一)
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