刊行物
生活協同組合研究 2023年8月号 Vol.571
今改めて原子力発電について考える
2023年2月に閣議決定されたGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針に基づくGX 推進法とGX 脱炭素電源法が2023年5月に可決、成立した。これは、東京電力福島第一原発事故(2011年)以降「脱原発」の流れにあった原子力政策の転換を意味するものであり、提言『エネルギー政策の転換を目指して』(2012年)の中で今後のエネルギー政策の5つの重点課題の1つとして「原子力発電に頼らないエネルギー政策への転換」を掲げてきた生協にとっては政策的後退とも受け取れる。そこで、本特集では、ALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出問題も含めた原子力発電に係る諸課題をとり上げ、再生可能エネルギー主力電源化をめざす中での政府による原子力政策転換の妥当性について検証する。
鈴木達治郎氏には、GX 脱炭素電源法の成立を受けて原子力政策が今まさに大転換されようとする中、東京電力福島第一原子力発電所事故以降の原子力政策の合理性・正当性について検証いただいた。
飯田哲也氏には、電力需給ひっ迫や価格高騰という「作られた危機」に煽られて原発依存社会に戻るのではなく、再生可能エネルギーによる自立社会を目指すべきことを論じていただいた。
青柳聡史氏には、原発再稼働が電力不足解消に本当に貢献するのか否か、その効果の程度について使用済み核燃料の問題と併せて考察いただいた。
竹内敬二氏には、ロシアによるザポリージャ原発占拠が明らかにした戦時下の原発のリスク、解決の難しさ、日本への教訓などについて解説いただいた。
ALPS 処理水の海洋放出問題について、関谷直也氏は、東京電力福島第一原子力発電所事故後の海外における風評被害と併せて現在の風評被害の課題の一つとしてとり上げ、福島県の内外でまだまだ課題が多いと考えられている現状などを近年の調査結果から示された。河野雪子氏には2023年4月28日にインタビューをお受けいただき、反対署名の提出・要請行動の経緯から現状について、併行して進めた学習会開催の取り組みとともに紹介いただいた。
GX 基本方針には「国・事業者は、東京電力福島第一原子力発電所事故の反省と教訓を一時たりとも忘れることなく……」と明記されている。この一文に本当に魂がこもっているのか、今回の特集を含め、不断に検証していきたい。
(中村 良光)
主な執筆者:鈴木達治郎、飯田哲也、青柳聡史、竹内敬二、関谷直也、河野雪子
目次
- ●巻頭言
- 生協とSDGs(小栗崇資)
- ●特集 今改めて原子力発電について考える
- 原子力政策の再検証:その合理性、正当性を問う(鈴木達治郎)
- 再エネ主力電源化へ、踏むべきはブレーキではなくアクセル(飯田哲也)
- 原発再稼働で電力需給ひっ迫は解決するのか?(青柳聡史)
- 戦時下の原発リスク──ロシアのザポリージャ原発占拠が明らかにした原発の弱さと危険──(竹内敬二)
- ALPS処理水に関する住民意識──2019年、2021年、2023年調査より──(関谷直也)
- 「アルプス(ALPS)処理水海洋放出に反対する署名」の取り組みについて(河野雪子)
- ●国際協同組合運動史(第17回)
- 国際協同組合同盟(ICA)1927年第12回ストックホルム大会②(鈴木 岳)
- ●本誌特集を読んで(2023・6)
- (河原林孝由基・豊田陽介)
- ●研究所日誌
- ●アジア生協協力基金2024年度・助成金一般公募のご案内
- ●『アジアに架ける虹の橋-アジア生協協力基金活動報告2023』ウェブサイト掲載のお知らせ
- ●アジア生協協力基金活動報告会(9/7)
- ●公開研究会「健康づくりへのナッジの活用」(9/21)
- ●第32回全国研究集会「世界的な食料危機の中で、持続可能で健康的な食のあり方と生協の役割を考える」(10/28)