刊行物
生活協同組合研究 2023年6月号 Vol.569
世界の協同組合によるエネルギー事業と日本
電車の一番先頭で景色をみるのが性分である。線路の配線や各種信号機器、速度制限と解除の標識、曲線標、勾配標、距離標、踏切など、見るもの多くなかなか忙しい。さてその際、第二次世界大戦前から営業していた幾つかの電気鉄道(民鉄)で、架線柱が異様に高いものが時折みられる。これは、戦時中の国家統制によって停止するまで、かつて鉄道会社が周辺沿線に電気供給事業を行っており、架線の上に高圧送電線がかかっていた名残である。
一方で、産業組合による電力事業が、大正期に入ると長野県下の創立(有限責任龍丘電気生産組合、1914-15年)を嚆矢として、1922年には福岡県、佐賀県、長崎県など、各地に広がっていたことも押さえておこう(本特集の「コラム」参照)。元来、日本でもこの種の事業は協同組合のしくみと親和性を有していたところがあったわけである。
さて、今回の特集では、国外(アルゼンチン・ドイツ・イタリア・米国)のエネルギー協同組合、とりわけ電力についての事情を中心に紹介し、そして日本の協同組合では、という構成とした。冒頭でアルゼンチンを取り上げたのは、国際協同組合同盟(ICA) の現会長アリエル・グアルコ氏がこの国の電力協同組合出身であるにもかかわらず、殆んど彼の背景は知られていないことがある。さらに脱原発の確定したドイツの近況、電力が高価なイタリアにおける動向、米国の主に農村の電力協同組合、日本の最新事情、解題調のコラムという構成としている。それぞれ、当地の協同組合事情、ないし言語に通じている論客を揃えることができた。
協同組合(及び関連セクター)が経済的にひとかどの地位を有する条件の一つとして、巨大資本(独占資本)とどう対峙するか、という古くかつ新しい問題がある。そのなかでも、経済活動の基幹をなす電力等のエネルギーにどう向き合うものか、考える機会をいささかなりとも提供しえているならば、嬉しく思う。
(鈴木 岳)
主な執筆者:石塚秀雄、寺林暁良、田中夏子、三浦一浩、本田恭子
目次
- ●巻頭言
- 必需財であるエネルギーへの取り組みは生協運動そのもの「コンセントの向こう側」の社会課題を組合員とともに考え行動する(岩山利久)
- ●特集 世界の協同組合によるエネルギー事業と日本
- アルゼンチンの電力協同組合(石塚秀雄)
- ドイツにおける市民エネルギー協同組合の動向(寺林暁良)
- イタリアにおけるエネルギー協同組合の動向──legacoop第41回大会(2023年3月)で発刊された資料「レガコープ~エネルギーコミュニティ」の概要紹介を中心に──(田中夏子)
- アメリカにおける電力協同組合の展開(三浦一浩 )
- 再生可能エネルギーの担い手としての農業協同組合の現状と課題──中国地方の小水力発電所を事例に──(本田恭子)
- コラム 協同組合とエネルギー供給(三浦一浩)
- ●国際協同組合運動史(第15回)
- 国際協同組合同盟(ICA)1924年第11回ヘント大会(鈴木 岳)
- ●本誌特集を読んで(2023・4)
- (安部裕子・小林由比)
- ●新刊紹介
- 小栗崇資『社会・企業の変革とSDGs─マルクスの視点から考える─』(藤田親継)
- ●私の愛蔵書
- 室田 武『電力自由化の経済学』(三浦一浩)
- ●研究所日誌
- ●生協総研賞「第21回助成事業」の応募要領(抄)