刊行物

生活協同組合研究 2023年5月号 Vol.568

ワーカーズ・コレクティブの現在地

 働く人の協同組合であるワーカーズ・コレクティブの運動は、生活クラブ生協の運動のなかから始まり、40年以上の歴史を積み重ねている。雇用ではない「もう一つの働き方」で社会をつくり・かえることをめざしてきたワーカーズ・コレクティブの運動は、多くの人が参加するなかで、各地に広がってきた。また、2020年には労働者協同組合法が成立し、働く人の協同組合への社会的な関心も高まっている。

 その一方で特に事業体としてみた場合、ワーカーズ・コレクティブには課題も多い。そうではない団体も多く活動しているものの、そこで働くメンバーの労働の対価が十分ではないという指摘は常に存在するほか、組織数やメンバーの数なども近年は成長しているとは言えない状況にある。また、成立した労働者協同組合法にもワーカーズ・コレクティブが本来めざしていたものとはやや異質な要素が含まれているように映る。

 本特集では、ワーカーズ・コレクティブのこれまでの歩みや現在抱えている課題、今後の展望などについて生活クラブ生協の関係者からご寄稿いただくと同時に(伊藤稿、白井稿)、発祥の地である神奈川県の神奈川ワーカーズ・コレクティブ連合会のお二人による対談を掲載し、率直な思いや悩み、期待を語っていただいた。また、研究者による論考では、社会的連帯経済の議論や社会的企業論などに立脚した、ワーカーズ・コレクティブの新たな動きへの視座を提示いただいている(藤井稿、菰田稿)。コラムの事例紹介(中野稿)と合わせ、ワーカーズ・コレクティブの現在への理解を深める糸口にしていただきたい。なお、労働者協同組合法についてはNPO 法との比較による論点整理(関口稿)が参考になる。

 各論考を通じて、ワーカーズ・コレクティブの到達点、現在地を確認しつつ、特に現在運動を担っている世代がどのような思いを抱き、どのような「働き方」や「社会のあり方」を展望しているのか、感じ取っていただければ幸いである。

(三浦一浩)

主な執筆者:伊藤由理子、木村満里子、井上浩子、三浦一浩、藤井敦史、菰田レエ也、白井和宏、関口宏聡、中野寿ゞ子

目次

巻頭言
コロナ禍のCSW67とジェンダーNGOs(吉村真子)
特集 ワーカーズ・コレクティブの現在地
ワーカーズ・コレクティブの歩みとこれから(伊藤由理子)
対談:ワーカーズ・コレクティブの現在(木村満里子・井上浩子〈聞き手:三浦一浩〉)
労働者協同組合法時代におけるワーカーズ・コレクティブと社会的連帯経済 ─神奈川における新しい中間支援組織作りの模索から─(藤井敦史)
変遷期におけるワーカーズ・コレクティブの新しい展開 ─更新する運動性を神奈川・東京の実態調査から探る─(菰田レエ也)
これからのワーカーズ・コレクティブの課題─「雇用されないもう一つの働き方」だけでなく「ディーセント・ワーク」の実現をめざして─(白井和宏)
NPO法から見た労働者協同組合法(関口宏聡)
コラム 多様な事業展開はワーカーズ・コレクティブの醍醐味(中野寿ゞ子)
国際協同組合運動史(第14回)
1921年第10回バーゼル大会②とその後の動向(鈴木 岳)
本誌特集を読んで(2023・3)
(中村年春・西島秀向)
研究所日誌
公開研究会 生協による地域の市民活動支援を考える(5/19)