刊行物

生活協同組合研究 2023年4月号 Vol.567

高齢者の生活と消費

 2022年の高齢化率(国民に占める65歳以上の割合)は29.1%となり、2040年には35.3%に達する見込みである1)。3人に1人が高齢者になりつつある中で、高齢者がどのような生活を送り、どのような悩みを抱えているか、その理解を深めることを本特集では目的としている。

 まず、高齢者の消費や収入の状況について、統計的な知見のインプットを目的として、ニッセイ基礎研究所の坊氏に、国内の統計資料等を基に分析していただいた。高齢者の収入・貯蓄の状況や、その結果としての消費の状況がどうなっているのか、確かな数値として把握しておくことは非常に重要である。

 そして、高齢者の生活における悩みに関するキーワードとして、「健康」「就労」「ICT」を取り上げ、それぞれ専門的な知見を持つ執筆者に寄稿いただいた。

 「健康」については、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターの阿部氏に、高齢層の移動状況や移動手段と健康の関係に関する研究成果をご紹介いただいた。近年では高齢者の免許返納に関する話題が取り上げられることも多いが、自動車等の移動手段とフレイルの関係等について独自の調査結果等も踏まえた貴重な分析となっている。

 「就労」については、独立行政法人労働政策研究・研修機構の森山氏に高齢期の働き方の特徴や課題について、企業と労働者双方の視点から整理いただいた。海外との高齢者就労の状況の違いや、国内における制度の変遷、高齢者の仕事内容・処遇・満足度を高める要因など、高齢者就労の特徴や課題を多面的な視点から分析いただいている。

 「ICT」については、西武文理大学の菅原氏に地域コミュニティにおけるICT の活用について、千葉県柏市布施新町の「布施新町みらいプロジェクト」の事例を取り上げながら、その可能性や課題について考察していただいた。まちづくりや地域づくりにICT がどのように貢献できるのか、実際の住民の声を聞きながら進めた取り組みは、生協にとっても大きなヒントになる内容となっている。

 特集の末尾では、高齢層組合員の生協利用の状況について紹介している。日本生活協同組合連合会による「全国生協組合員意識調査」について、主に2006年度と2021年度の結果を比較した分析を紹介しているため、地域生協における高齢層組合員の利用状況を改めてご確認いただければと思う。

 『生活協同組合研究』では2017年6月号にて、若年層についての特集を組んでいる。今回は高齢層についての特集となるが、生協を含めた協同組合は幅広い世代が協同・参加している。それぞれの世代がどのような生活をし、どのような悩みを持ち、どのような楽しみを持ちながら日々を過ごしているのか、自分とは異なる世代の人々のことを理解するのはなかなか難しいものではあるが、本特集がその一助になることを期待する。

1)総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者-『敬老の日』にちなんで-」統計
トピックスNo.132、https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1320.html.

(宮﨑 達郎)

主な執筆者:坊美生子、阿部 巧、森山智彦、菅原育子、宮﨑達郎

目次

巻頭言
わが国の食料安全保障をめぐって(中嶋康博)
特集 高齢者の生活と消費
高齢者の消費の現状(坊美生子)
高齢期における外出時の移動手段:健康の視点から(阿部 巧)
高齢者就労の特徴と課題:企業,労働者双方の視点から(森山智彦)
地域コミュニティにおけるつながりづくりとICTの活用の可能性(菅原育子)
全国生協組合員意識調査からみる高齢層の生協利用の変化(宮﨑達郎)
国際協同組合運動史(第13回)
国際協同組合同盟(ICA)第10回バーゼル大会(鈴木 岳)
本誌特集を読んで(2023・2)
(岩田三代・荒井絵理菜)
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