研究活動

第31回全国研究集会を開催しました

 2022年11月5日(土)、主婦会館プラザエフ(7階カトレア)にて第31回全国研究集会を開催しました。昨年と同様に来場参加とオンライン配信のハイブリッド形式で実施しました。参加者総数は277名(うち、会場参加54名、オンライン参加223 名)でした。

 進行する人口減少と著しい経済成長を期待し難い社会構造の下で、これまで地域福祉制度の対象とされてきた支援を必要とする人々と、そうでない人々を二分する視点に疑念が呈されるようになっています。そして、現実には人々による相互の支え合いの実践はこれまでに多くの地域において、生協を含め様々な形で行われてきました。今年度の全国研究集会ではこのような身近な場所での支え合いの活動を「協同」ととらえ、「協同」の形には多様性があること、生協を含む協同組合組織や組合員が、組織あるいは個人として組織を超えた「協同」に関わることの可能性等、多様な活動のありようへの理解を深め、組織的・個人的な「協同」への関わり方を考える機会とすることを目的に開催致しました。

 第1部では、これまで地域福祉制度において対象とされてきた支援を必要とする人々と、そうでない人々を二分する視点から脱却・ケアの重要性を再評価し、支え合いを通じて誰もが元気になれる社会を創る必要性と、多くの地域において既に行われてきている様々な支え合いの歴史について、学術的な視点から2名の講師より基調講演をいただきました。

 まず、宮本太郎氏(中央大学教授)より「協同組合が拓く新たな地域社会とケアのかたち」と題したご講演をいただきました。長期にわたる経済の停滞や新型コロナウイルス感染拡大などにより日々の生活の中で人々の不安が増していること、このような時代に支える側、支えられる側を分けるのではなく皆が互いに支え合う社会(これを地域共生社会と呼ぶ)を創ることが求められているとの基本認識が示されました。そして、これまでの社会保障制度は正規雇用で働く社会保険制度に加入できる人を中心に構成され、これらの制度に入ることのできない人々は限定的にしか対処していないことや介護や子育てといったケアを家族に任せ、冷遇してきたこと、しかし現実には誰もがケアを必要としており、ケアの持つ価値を再確認する必要があること、誰かを元気にすることで誰もが元気になっていく社会をこれからは目指すべきと議論されました。そして支え合いを理念的な基礎としている協同組合はこのような働きかけのための格好の組織であり、組織の枠を越え、行政や様々な団体と連携しながら地域で人々をつないだり、つながる場を作ったりといった取り組みを協同組合が積極的に担うことへの期待が示されました。

 続いて、朝倉美江氏(金城学院大学教授)より「生活と労働を協同でつくる 地域福祉と多文化共生の視点から」と題した基調講演をいただきました。朝倉先生からは、新型コロナ感染症の拡大で私たちは命の大切さを改めて実感することになったこと、そしてその命の上に日々の生活があり、それは労働によって支えられていること、このような日々の生活は個人を基盤としており、その周りにある家族、地域社会という3層を支えるのが地域福祉であり、そのためには多様な支え合いが必要であるという問題認識を最初にご提示いただきました。続いてこのような地域における支え合いについて生活協同組合は長い活動の歴史を持ち、地域福祉の向上に寄与した実績があること、しかし同時にケアに対する公的責任についても問うていくべきであることを指摘されました。そして近年のケアの問題が深刻化している背景として非正規雇用の拡大に代表される雇用環境の悪化があり、その最前線に外国人労働者が置かれていること、彼らは私たちの生活に不可欠なサービスに多く従事しており、この問題は私たちの生活に直結していることが示されました。最後に、外国に出自を持つ人、そうでない人が地域において共にケアに携わることで新たな地域福祉の文化を創造する可能性と、それを既に実践している協同組合の事例を紹介され、講演を締めくくられました。

 第2部では、活動の地域・内容・法人形態はそれぞれ異なるものの、団体として取り組む「事業」の枠を越えた、地域における支え合いを実践している3組織を代表する方々に事例報告をいただきました。

 まず、川津昭美氏(南医療生活協同組合副理事長)より愛知県豊明市の住民主体型生活サポート事業「豊明市おたがいさまセンターちゃっと」について報告をいただきました。「ちゃっと」は地域住民のちょっとした困りごとを受け付け、同じ地域住民であるサポーターを探してつないだり、サポーター養成講座を開催したりしています。推進体制は南医療生協、コープあいち、JAあいち尾東の三者の協同で、それぞれの組合員は中心的なサポーターとしても活動しています。行政からの委託事業ではありますが、活動の中心は市民であることや、市内にある医科大学の学生もサポーターとなり、支援を通じて高齢者と交流したり、80代のサポーターが70代の住民の支援をしたり、「ちゃっと」を通じて日々の支え合いが広がっている様子をお話いただきました。

 続いて、甲斐隆之氏(合同会社Renovate Japan代表)より空き家問題と住宅困窮の問題を同時に解決するソーシャルビジネスについて報告をいただきました。同社では空き家の改修を事業とし、その過程でリフォームの済んだ部屋を住居と仕事に困窮した人に提供、改修作業に参加してもらうことで就労や人間関係の醸成など、次のステップの形成を支援しています。空き家改修の作業に携わる人をリノベーターと名付け、住宅支援サービスの受け手ではなく担い手という意識で、物質的・心理的な安心を提供しつつその人の生活の立て直しを図りながら、改修の必要や古い家を再び市場に戻すことを可能にするビジネスモデルについてお話をいただきました。

 最後に、鴻上千恵美氏(新居浜医療福祉生活協同組合専務理事)より同医療福祉生協の事業運営について報告をいただきました。同医療福祉生協では住民をまるごと大きなカゾクととらえ、「在宅でひとり死」できる生活を支えることを目的に事業を展開しています。事業運営の基本となるルール(かかわりあう人が「幸せである」ことや、自分ならどうして欲しいかを判断基準とする、職員が上下関係ではなく横の関係になれる「〇〇でも」から「〇〇が」という言い方等)や時間をかけて信頼関係を築いた職員や利用者の事例、生協としての事業を成立させる3つのはたらき(お金を稼ぐ働き、傍らが楽になる働き、地域で活動する働き)等、事業を支える理念を中心に具体的なお話をいただきました。

 第1部では、地域福祉において支える側と支えられる側を二分する視点の問題やケアの価値を再認識することの重要性、地域における支え合いの歴史と生活協同組合の関わり等について学術的な視点から講演をいただきました。そして第2部では、第1部でお話をいただいた、支える側と支えられる側の枠を越える活動を実際に行っている3組織から報告をいただきました。研究者による理論的なお話に続いて、それらの理論に実体を与える活動をされている皆様からご報告をいただくことにより、参加された皆様に、学術的な研究において議論されていることが地域における支え合いの実践とつながっていることを実感いただけたと思います。参加者アンケートには、「地域での活動について新たな視点を得られた」、「今後の活動のモチベーションをあげる報告を聞くことができ有意義だった」、「企業とは異なる世界でこれほどの知見や実績が蓄積され、組織だって運営されていることに感銘を受けた」といった感想が寄せられました。

 また、昨年に続き来場参加とZoomでのオンライン配信を併用したことに対して、「過去に会場で参加をしたことがあるが、Zoomでも問題なく参加し学ぶことができた」、「当日急遽オンライン参加に変更させてもらった。ハイブリッド形式の開催は非常にありがたい」、「Zoomだと移動時間が節約できるため気軽に参加でき、とても助かる」といった感想が寄せられ、多くの皆様に好評をいただきました。

第31回全国研究集会の模様は『生活協同組合研究』2023年1月号に掲載されております。あわせてご覧下さい。

主なプログラム(敬称略)

開会挨拶 中嶋 康博(生協総合研究所理事長・東京大学大学院教授)

基調講演 ①「協同組合が拓く新たな地域社会とケアのかたち」
宮本 太郎(中央大学 教授)

基調講演 ②「生活と労働を協同でつくる 地域福祉と多文化共生の視点から」
朝倉美江(金城学院大学 教授)

2つの基調講演に対する質疑応答

事例報告 ①「豊明市おたがいさまセンターちゃっとの仕組みと活動内容」
川津 昭美(南医療生活協同組合 副理事長)

事例報告 ②「『家が空いている』のに『家が足りていない』を解決する」
甲斐 隆之(合同会社Renovate Japan代表)

事例報告 ③「いっしょにつくる いっしょに生きる」
鴻上 千恵美(新居浜医療福祉生活協同組合 専務理事)

3つの事例報告に対するコメントと質疑応答

閉会挨拶 藤田 親継(生協総合研究所専務理事)

<司会> 山崎由希子(生協総合研究所研究員)