研究活動

第30回全国研究集会を開催しました

 2021年11月2日(火)、主婦会館プラザエフ(7階カトレア)にて第30回全国研究集会を開催しました。来場参加に加えて、今回は新たにオンライン配信(Zoomウェビナー)も実施しました。参加者総数は443名(うち、会場参加27名、オンライン参加416名)でした。

 2020年1月以降に起きた新型コロナウイルス感染拡大は、かねてより進行していた格差・貧困・孤立の問題を深刻化させました。さらには非接触型サービスの需要が高まり、生協への加入や注文が大幅に増加し、その対応に苦慮する生協もあった中で、生協が地域の食を支えるインフラとしての責任をどのように果たしていくべきかが問われました。このような背景を受けて、今回は「ポストコロナ時代における生協の役割を考える~新型コロナウイルス感染症禍は生協に何を問いかけたのか~」というテーマで実施しました。

 第1部では、2020年1月以降に起きた新型コロナウイルス感染拡大が、社会全体にどのような負の影響を与えたのかを整理し、その影響を乗り越え、より良い社会を築くために、協同組合がいかなる役割を果たすべきかを議論しました。

 まず、神野直彦氏(東京大学名誉教授 生協総合研究所顧問)から基調講演「危機を超えて人間主体の社会を再創造する~人間の未来を取り戻すために~」をいただきました。この報告では、新型コロナウイルス感染拡大によって社会が危機に直面したのではなく、それ以前から人間が作り出した諸要因によって社会は危機に直面しているとの指摘がなされました。そして、人間が作り出した諸要因とは、オイルショック(自然資源を多消費する大量生産・大量消費の重化学工業化の終焉)や、ブレトンウッズ体制の崩壊(資本が国境を越えて自由に動き回る変動相場制への移行)、チリのアジェンデ政権の崩壊から始まった「市場原理主義」の台頭による福祉国家から新自由主義への転換であり、これによって人々の連帯意識が失われ、人間らしい生活を送るための基盤が失われたとの指摘もなされました。その上で、新型コロナウイルス感染拡大はその危機を増幅させるように作用したこと、この危機を克服して人間らしい社会を再創造するためには、市民社会を拡大していくことが重要だとの見方が示されました。そして、市民社会の担い手として期待されるのは、協同組合やNPOなどのボランタリーセクターであり、この危機の時代にこそボランタリーセクターが重要な使命を担うとして、講演の最後は生協への期待で締めくくられました。

 続いて、石田光規氏(早稲田大学教授)から基調講演「地域のつながりの現状と課題」をいただきました。未婚率の高まりや単身世帯の増加など、日本では家族が縮小傾向にあり、それに伴って家族内での相互扶助が難しくなり、孤立という課題が深刻化しているとの指摘がなされました。そして、孤立という課題を解決するための公的支援も財政的に厳しくなっているとの指摘もなされました。さらに、現代社会は、人々が他者との関係を取捨選択するようになり人間関係は「嗜好品」になりつつあること、その結果としてつながりを持つ相手として「選ばれる人/選ばれない人」が出てくるようになり、それが生きづらさにもつながっている、との見方が示されました。そして、このような時代だからこそ「地域」が重要となっており、地域は人間関係の取捨選択の原理がはたらきにくく、あらゆる人が緩やかにつながることができる可能性を持っているのではないか、そういった地域の醸成にボランタリーセクターは現在すでに大きく貢献しているが、今後更に、ボランタリーセクターに期待される役割は大きいのではないか、との提言がなされました。

 第2部では、日本生活協同組合連合会からの委託を受けて生協総研が2021年6月~7月に実施した「全国生協組合員意識調査」の結果を用いて、生協組合員のライフスタイルの変化や生協利用の実態について、生協総合研究所研究員2名が報告を行いました。

 まず、中村由香(生協総合研究所 研究員)から「組合員の暮らし方・働き方と生協利用」と題した報告が行われました。この報告では、少子高齢化や就業率の高まりといった日本社会全体の変化に加え、新型コロナウイルス感染拡大という危機が襲ったことで、従来の生協組合員像が変化していることが示されました。具体的には、生協組合員の就業率が高まっていること、子どものいない世帯率が減少していること、男性比率が増加している等の報告がありました。そして、就業率の高まりに伴い、生活時間の余裕がなくなる傾向が見られ、それが組合員活動への参加の障壁となっていることも明らかにされ、今後どうやって参加を促進していくのかを考える必要があるという問題提起がされました。

 続いて、宮﨑達郎(生協総合研究所 研究員)から「組合員の生活様式の変化と生協の利用状況・イメージ」と題した報告が行われました。この報告では、生協の利用継続意向に着目し、新型コロナウイルス感染拡大を機に生協を使い始めた加入年数の短い組合員も、加入年数の長い組合員と同様に利用継続意向は一定程度高い傾向にあることが明らかにされました。また「環境への配慮が高い」、「安全性の高い商品を取り扱っている」、「組合員のニーズや声を商品やサービスに反映している」といった生協のブランドイメージを強く認識している人が生協の利用継続意向も高い傾向があるものの、加入年数が長くなってもブランドイメージの認知が高まっていない状態もあるとして、生協が組合員に対して認知を高めるような効果的な施策を打てていない可能性があるという問題提起がされました。

 第1部では、日本社会全体の課題や、その課題解決に向けてボランタリーセクターに期待される役割など、マクロな視点からご講演をいただきました。そして第2部では、第1部の講演を受けつつ、より具体的に生協の事業や活動に焦点を当てて、ミクロな視点で報告を行いました。マクロとミクロの視点を組み合わせることで、目指すべき社会像や、その社会の実現に向けた生協の使命について参加者の理解が深まったと考えられます。実際に、参加者アンケートには、「第1部、第2部の組み合わせが良かった」、「長丁場でしたが内容が充実しており、とても有意義な時間でした」といった感想が寄せられました。

 また、来場参加だけでなくZoomでのオンライン配信も併用したことに対して、「今まで参加したくてもできなかった地方の生協にとっては、費用面でとても助かります」、「移動がなく、時間が有効に使えて、講師のお話もはっきりと聞こえて良かったです」、「子育て中で会場にいくことが難しいので、オンラインでお話を聞くことができて良かったです」といった感想が寄せられるなど、例年は参加が難しかった方々にも多くご参加いただくことができました。

 第30回全国研究集会の報告は『生活協同組合研究』2022年1月号に掲載されます。合わせてご覧下さい。

プログラム

開会挨拶 中嶋康博(生協総合研究所理事長・東京大学大学院教授)

■第1部 日本社会の現状と今後の展望
基調講演①「危機を越えて人間主体の社会を再創造する ~人間の未来を取り戻すために~」
 神野直彦(東京大学名誉教授 生協総合研究所顧問)

基調講演②「地域のつながりの現状と課題」
 石田光規(早稲田大学教授)

2つの基調講演に対する質疑応答

■第2部 生協の現状と今後の展望:日本生活協同組合連合会「全国生協組合員意識調査」の結果から

調査報告①「組合員の暮らし方・働き方と生協利用」
 中村由香(生協総合研究所研究員)

調査報告②「組合員の生活様式の変化と生協の利用状況・イメージ」
 宮﨑達郎(生協総合研究所研究員)

2報告への質疑応答
(オンラインでは、ZoomウェビナーのQ&Aで受付いたします。)

閉会挨拶 藤田親継(生協総合研究所専務理事)

<司会>山崎由希子(生協総合研究所研究員)