研究活動

海外報告
ICMIFアルゼンチン大会 参加報告【西尾 由】

アジア・オセアニア地区の大会参加者

■海外出張の目的

ICMIFアルゼンチン大会参加

■日程・訪問地

2024年11月12日~15日 ブエノスアイレス(アルゼンチン)

報告

 国際協同組合保険連合(ICMIF)大会は「パーパスのために協力する」をテーマとして、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスに全世界の協同組合保険および相互扶助の理念に基づく保険会社から総勢404名が2024年11月12日~15日の日程にて参集して盛況に開催されました。各セッションでは各界専門家や会員組織の役職員が登壇して具体的な取り組みを発表するとともに参加者間で有益な情報交換が行われました。以下に大会における個別セッションのテーマと内容について報告します。

大会前日

 ICMIF大会前日には歓迎レセプションが開催されました。

大会1日目

 ICMIF大会1日目は、協同組合と相互扶助保険組織がどのようにしてパーパスを実現し、顧客体験を向上させるかについて、多くの洞察が得られる内容でした。

開会式と基調セッション

ICMIFロブ・ウェセリング会長

 ICMIF会長を務めるコーペレーターズ(カナダ)のロブ・ウェセリング氏は、ICMIFを通したネットワークの持つ価値を強調し、会員組織間の情報共有や国の枠を超えた協力の重要性を唱えました。コンサルティング会社EYのイザベル・サンテナック氏は、世界情勢(貿易摩擦、資本移動、地政学、サイバー戦争、グリーンエコノミー)について触れた後、保険会社を取り巻く経営環境(資本の制約、規制強化、コスト上昇、収益へのプレッシャー)に対してサステナブルに対処していくことが重要であると述べました。

CEOパネル「パーパスのために収益性を保つ」

 ロイヤル・ロンドン(英国)のバリー・オドワイヤー氏は自社のパーパスを説明し、SDG投資、顧客理解の重要性について述べました。フォルクサム(スウェーデン)のイルヴァ・ヴェッセン氏はパーパスに基づく画期的な取り組みとして、貧困層でも加入できる保険や家庭内暴力に対する保険の開発、ウクライナ難民に対する保険無償提供について紹介しました。サンクリストバル(アルゼンチン)のディエゴ・グアイタ氏は、迅速な支払と顧客サービス向上、費用削減による競争力維持が重要であると述べました。CIC(ケニア)のパトリック・ニャガ氏は、マイクロインシュアランスの推進とデジタルチャネルの強化について語りました。

セッション1「人を第一に考える組織の構築」

 PPS(南アフリカ)のマセニャネ・モレフェ氏はパーパスに導かれたリーダーシップ、心理的安全性、職員のウェルビーイング促進について説明しました。LV=(英国)のデビッド・ハイナム氏は従業員満足度向上、離職率低下、DEI(多様性、公平性、包括性)推進について述べ、ネット・プロモーター・スコア(NPS)が近年上昇したことをアピールしました。CLIMBS(フィリピン)のドナ・ディゾン氏は協同組合としてのアイデンティティ教育の重要性を強調しました。

セッション2「高まる顧客期待への対応」

 P&V(ベルギー)のヒルデ・フェルナイレン氏はオムニチャネル、DX投資、顧客体験の向上について説明しました。ベネバ(カナダ)のジャン=フランソワ・シャリーフ氏は顧客中心アプローチ、AIの活用について説明し、従業員満足度の向上が顧客満足に直結することを強調しました。NFUミューチュアル(英国)のニック・ターナー氏は地域に根ざした個別対応や顧客の声の活用、従業員体験向上による顧客満足度の向上について述べました。

大会2日目

 ICMIF大会2日目は、技術革新や持続可能性、パーパス志向の戦略がどのようにして保険業界の未来を形作るかについて深く掘り下げられた一日となりました。

セッション1「進化するリスク環境における新たな機会の開拓」

 保険業界が直面する急速な変化と不安定な環境において、価値提案や事業戦略の再定義が求められていることが議論されました。特に人工知能(AI)やITテクノロジーの出現が保険業界に与える影響について考察されました。マイクロソフトのモナ・コタリ=チタリア氏とEY(カナダ)のジェニファー・バジウク氏は、AIの活用が保険業界における顧客体験変革やリスク管理の精緻化にどのように寄与するかを説明しました。具体例として見積作成業務の簡素化や支払査定の自動化が挙げられました。またユニベ(オランダ)のヨハン・ファン・デン・ネステ氏は、サイバーリスクへの対処として、ヘルプデスク導入やフィッシングメール被害防止の取り組みについて発表しました。

セッション2「パーパス志向の戦略の実践」

こくみん共済coop高橋忠夫専務理事、コープ共済連和田寿昭理事長等の登壇者

 協同組合や相互扶助組織がどのようにしてパーパス志向の戦略を実践し、事業のパフォーマンスを向上させているか議論しました。ゴア・ミューチュアル(カナダ)のギャビー・ポランコソルト氏は、環境・社会・ガバナンスの目標を事業運営に反映し、持続可能な未来を目指していることを強調しました。こくみん共済coopの髙橋忠夫氏とコープ共済連の和田寿昭氏は、協同組合間連携の具体例として地域生協による自然災害共済推進や小学生の交通安全における共創の取り組みを紹介しました。

セッション3「パフォーマンス向上のためのサステナビリティ」

 リオ・ウルグアイのベレン・ゴメス氏は持続可能性がビジネスパフォーマンスを向上させると述べました。アクメア(オランダ)のバブス・ダイクスホールン氏は2030年までにネットゼロCO2排出を達成する目標やインパクト投資の拡大について述べました。

セッション4「優れた事業運営と価値創造に向けた変革」

 協同組合や相互扶助の保険組織が新しい効率的プロセスとデジタル機能を統合して、パフォーマンス向上のために事業モデルを最適化する方法が議論されました。ユニメッド(ブラジル)のヘルトン・フレイタス氏はAIやデータ分析を活用して運営効率を向上させていることを説明しました。ギャラガー・リーのアンドリュー・ジョンストン氏はインシュアテックによる業務効率向上と価値創造について述べ、AIの役割やIT投資の必要性を強調しました。

大会3日目

 ICMIF大会3日目は、協同組合や相互扶助の保険業界と国際機関のパートナーシップを通じた協力により、コミュニティのレジリエンスを強化して持続可能な未来を目指すための具体的な取り組みや戦略が共有されました。また大会プログラムの最後にショーン・ターバック氏がICMIF事務局長を退任し、リズ・グリーン氏が後を引き継ぐことが発表されました。

セッション1「レジリエンスの高いコミュニティを構築するパートナーシップ」

 保険開発フォーラム(IDF)事務局長のエホスエヒ・イヤヘン氏はリスク管理の最適化、災害や経済的ショックに脆弱な人やコミュニティのレジリエンス強化をIDFのミッションとしていることを強調し、プロテクション・ギャップを持続可能な方法で解決し、自然災害に対するレジリエンスな態勢を構築する課題と取り組みを紹介しました。国連開発計画(UNDP)で保険・リスクファイナンスを担当するミゲル・ソラナ氏はUNDPとICMIFが「保険イノベーション・チャレンジ」と称して、協同組合および相互扶助保険組織が十分な社会保障を得ることが出来ない発展途上国の人々に対し、手頃な価格で包括的な保険を提供しようとする取り組みを説明しました。スイス・リーのジョリー・クロスビー氏はサステナブルな保険を通じて世界をよりレジリエントにしていくビジョンをICMIFとのパートナーシップを通じて実現していく重要性を強調しました。

セッション2「よりレジリエンスの高い事業を生み出すパートナーシップ」

 JA共済連の高橋和成氏は、JA共済による地域社会のレジリエンス向上の取り組みとして、耐震補強やスマホアプリを活用した迅速な共済金支払いについて紹介しました。サンコール(アルゼンチン)のアレハンドロ・シモン氏は企業のレジリエンスを高めるため、保険代理店を通じて900万人の労働者をカバーする保険を提供していると述べました。CARD MRI(フィリピン)のアリス・アリップ氏はマイクロ・インシュランスを創設してすでに3000万人もの加入者を組織していることを発表して会場から称賛されました。

セッション3「パーパスのために協力する」

ICAアリエル・グアルコ会長

 国際協同組合同盟(ICA)会長のアリエル・グアルコ氏は協同組合運動がグローバルな課題に取り組むための協力と革新の重要性について述べました。またデジタル技術とAIの発展が新たな雇用を創出する可能性やグリーン政策への移行による雇用創出の機会について強調し、協同組合間協力の必要性と持続可能な開発を達成するための戦略的行動に言及しました。

ICMIF総会/新旧事務局長の引継ぎ

ICMIFショーン・ターバック事務局長、ロブ・ウェセリング会長、リズ・グリーン新事務局長

 ICMIF大会の最後において、総会としての議決事項の承認ならびに財務報告が確認されました。活動報告として前回大会以降の2年間に新しく26組織がICMIF会員に加わったことが発表されました。その後、これまで20年超にわたってICMIF事務局長を務めてきたショーン・ターバック氏に対する感謝が表され、後任となるリズ・グリーン新事務局長による挨拶が行なわれました。