研究活動

常設研究会 ― 協同組合法制度研究会 第33回報告 ―

○ 開催日時
2018年5月28日(月)17:00~19:00
○ 開催会場
プラザエフ8階 パンジー
○ 参加者
18名(委員6名、報告者1名、オブザーバー10名、事務局1名)
テーマ
報 告:
山部 俊文氏(明治大学法学部教授)
テーマ:
「独占禁止法と農業協同組合 -土佐あき農協事件の事例を考える」
概要

 山部俊文氏(明治大学法学部教授)より、土佐あき農協および大分県農協に対して公正取引委員会から独占禁止法の規定に違反するとして排除措置命令が出された事件について、法律的な見地からの分析を行い、その問題点について報告いただいた。

報告の要旨
1.事件の概要
  1. ①土佐あき農協事件:同農協は、なすの販売受託にあたって「同農協以外のものに出荷したことにより支部園芸部を除名されるなどしたものからは受託しない」、「支部園芸部が定めた系統外出荷手数料等及び罰金等を収受する」等の行為により、同農協以外のものに出荷することを制限していたことが、一般指定12項(拘束条件付取引)に該当し、独禁法第19条に違反するとされ、公取委は同農協に対して排除措置命令を行った。
  2. ②大分県農協事件:同農協は、個人出荷を理由として味一ねぎ部会を除名された5名の組合員に味一ねぎに係る販売事業等を利用させない行為を行った。この行為が、一般指定4項(差別的取扱)に該当し、独禁法第19条に違反するとされ、公取委は、同農協に対して排除措置命令を行った。
  3. ③土佐あき農協に対する公取委の排除措置命令は、同委員会による農業分野に対する独禁法適用の方針を公表したのちの最初の事件であるとともに、改正農協法施行後の農協に法的措置を執った最初の事件である。
2.検討
  1. ①取り上げた2つの事件から公取委は、農協による系統外販売ルートの抑制について、不公正な取引方法として規制する方向のようにも見える。しかし、その根拠としている法の適用は定まっていない。
  2. ②不利益を受けた組合員への打撃それ自体を問題とするなら、優越的地位の濫用と捉える方がいいようにも思われる。拘束的条件付取引とする場合は、系統外出荷先の商系業者を排除しているかどうかを見る必要があるが、公取委の排除措置命令はそれには言及していない。
  3. ③2つの事件では農協を事業者としてみてその不公正な取引方法として捉えているが、独禁法22条の協同組合適用除外の趣旨との関係では、当該農協と競合する他の事業者との競争の状況や、農産物(なす・ねぎ)の購入者(卸売市場、スーパー)との力関係も視野に入れて検討する必要がある。
  4. ④また、協同組合とその組合員での問題という点では、これらの行為を協同組合内の一種の内部統制として捉えて検討することもできる。そこに公取委が介入することをどのように考えるか、検討の余地がある。
  5. ⑤近年の農協関連の独禁法違反事件は、農業という事業分野に対する規制という視点から捉えた方がよいようにも思われるが、これに対して、農協側は22条の協同組合適用除外の規定の趣旨を正面から持ち出して争うべきではないかと考える。
配布資料
  • 報告レジュメ「農業協同組合による系統外出荷の制限 -土佐あき農協事件及び大分県農協事件を手掛かりにして-」
その他
  1. 日本協同組合連携機構(JCA)の前田健喜氏より、本年4月に設立されたJCAについて、設立の経過、設立趣旨、組織の概要、主な機能、2018年度の事業計画について報告を受けた。
  2. 次回第34回研究会は、下記の要領で開催することを報告した。
    • 日時:2018年7月30日(月) 午後5時~7時
    • 報告:「地域社会の発展に貢献する協同組織金融」
    • 報告者:齊藤正先生(駒澤大学経済学部 教授)