刊行物情報

生活協同組合研究 2018年3月号 Vol.506

大災害から“いのち・くらし・人生”を守れ~誰一人取り残さない

 内閣府は昨年7月、南海トラフ巨大地震による住まいの全壊・半壊が最大で684万戸、これにより仮設住宅は205万戸が必要になるとの推計を発表した。

 廣井氏は、南海トラフ巨大地震による大規模な人口移動をシミュレーションによって可視化し、仮住まい期には246市区町村から最大145万6千世帯が流出すると予測している。東日本大震災では福島県を中心として多くの広域避難者が発生し、また被災を受けた地域では急激な人口減少に直面している市区町村も多い。日本の多くの地域では、ゆるやかな人口減少が続いているが、南海トラフ巨大地震が一気にこの状況を進め、自治体によっては地域が維持できなくなる恐れも想定できる。

 立木氏は、東日本大震災での宮城県の障がい者の死亡率が、全体の死亡率の倍であったのは、宮城県が積極的に進めた障がい者が在宅で暮らせる福祉環境づくりの結果であると指摘している。南海トラフ巨大地震が発生し津波が来た場合、在宅福祉、在宅医療、在宅ケアが進んでいる地域の被害は、東北の比ではないほど高くなる恐れがあると警鐘を鳴らす。

 安部氏は、災害時には、ジェンダーが強化されると指摘する。被災地でジェンダーが強化されたまま、子育て支援をすれば、逆に抑圧的な状況をもたらす危険性がある。これがジェンダー学習をしている当事者であっても絡めとられてしまう非常時のリアルなのだ。

 津久井氏には、取材の折、阪神淡路大震災の復興事業として、神戸市が施工した新長田駅南地区の再開発ビル「アスタくにづか」を案内していただいた。人通りの少ない商店街で逞しく営業を続ける顔なじみの商店主たちと気さくに挨拶を交わされていた。弁護士として、商店主たちの側に立ち、管理会社を相手に不当に高い管理費の返還を求めて裁判でたたかった。氏が提唱する被災者支援制度には一人ひとりに向き合ってきた思いが根っこにある。

 岩崎氏は、災害に便乗した復興事業が、東日本大震災でも熊本地震でも姿かたちを変えながら繰り返され、新たな復興弱者を生み出していると話された。阪神淡路大震災の被災者の暮らしは、いまだ神戸の街並みほどには復興していない。復興弱者を生み出すシステムが我々の社会を動かしている。それを乗り越えて行く力は、我々一人ひとりの手の中に在る。

 コラムでは、執筆者それぞれの視点から生協の取り組みについてご報告をいただいた。生協の地道な取り組みが、生協のイメージを変えつつある。

 首都直下地震においても、甚大な被害が想定されている。取材をしていて、防災・減災の取り組みが特別なものではなく、普段の活動と切り離されず、切れ目なくつながっていることが重要であることを改めて考えさせられた。

(菅谷 明良)

主な執筆者:廣井 悠、立木茂雄、安部芳絵、津久井進、岩崎信彦、山田浩史、尾崎靖宏、西澤雅道、小塚和行

目次

巻頭言
CO・OP共済のありたい姿(佐藤利昭)
特集 大災害から “いのち・くらし・人生” を守れ~誰一人取り残さない
南海トラフ巨大地震後の疎開シミュレーションと安全・安心な国土の形成(廣井 悠)
平時と災害時の配慮を切れ目なくつなぐ ─排除のない防災へ─(立木茂雄)
災害とジェンダー ─ひとりひとりが主体となる災害復興に向けて─(安部芳絵)
被災者一人ひとりに向き合う支援制度へ(津久井進)
〈復興弱者〉に見る被災と復興の問題構造 ─「災害資本主義」と生協の社会的役割─(岩崎信彦)
コラム1 災害時における地域連携・広域連携の事例(山田浩史、尾崎靖宏)
コラム2 熊本地震でのグリーンコープの活動と地区防災計画(西澤雅道)
コラム3 楽しくわかりやすく防災を学ぶ ─全労済の「ぼうさいカフェ」(小塚和行)
研究と調査
志津川事情を語る⑤(佐藤俊光・高橋源一(聞き手・鈴木岳))
生協組合員の放射性物質に対する意識や行動の調査(第一報)(加藤朋江)
地震等大規模災害補償に対して生協共済ができること(大塚忠義)
英ウェールズの障がい者介護協同組合の状況(佐藤孝一)
時々再録
防災スイッチの本当の意味(白水忠隆)
本誌特集を読んで(2018・1)
(石井勇人・野村泰史)
「生協と社会論」受講生募集
アジア生協協力基金2018年度助成事業計画決定のお知らせ
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