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生活協同組合研究 2011年1月号 Vol.420
特集:経済危機とくらし―生協の理念と地域社会との協働―
2008年のリーマンショックをきっかけとするグローバルな金融危機は世界的な経済危機をもたらし,まだ出口は見えていない。それは1970年代以降の管理通貨制度の動揺,80年代以降の行き過ぎた新自由主義政策の帰結であったが,20世紀型の世界システムの抜本的転換,日本の経済社会の出直し的な転換を求めている。今回の危機が,産業,雇用,地域社会,とりわけ消費者・市民のくらしにどのような影響を与えるか,そして今回の危機の要因分析から,新たに求められる経済社会システムの基軸は何か,そこで求められる生協・協同組合の役割と可能性は何かについて消費者・市民の立場から提言することが求められている。
このような問題意識から,2010年9月25日に東京の明治大学で開催された第20回全国研究集会では,「経済危機とくらし―生協の理念と地域社会との協働―」をテーマとして取り上げた。2009年度設置の「経済危機とくらし研究会」の成果をふまえ,経済危機を乗り越え,将来を展望する制度設計を試みるとともに,地域社会と協働して経済的・社会的な発展を目指す生協の先進的事例を取り上げ,そこから見えてくる今後のあり方を掘り下げて検討することを目指した。
第1部では研究会に参加する4人の研究者から問題提起をいただいた。神野直彦氏は「『分かち合いの経済学』と希望の構想」,宮本太郎氏は「参加保障とアクティベーション:『複合的危機』を超えて」,橘川武郎氏は「地域経済活性化と雇用創出:農商工連携と外部需要の呼び込み」と題する講演を行った。大沢真理氏には3つの講演へのコメントとまとめをしていただいた。
第2部のパネルディスカッションでは「地域社会との協働に生協の理念をどう生かすか」をテーマとして3人の生協トップから実践報告をいただいた。上田正氏は多重債務問題に対して,相談と低利生活資金融資で生活再建を支援する取り組み,吉田洋一氏は過疎地への出店や宅配事業と環境経営,佐藤利昭氏は福祉,環境,教育など地域社会の諸問題に取り組む事例を紹介した。コーディネーターをつとめた芳賀唯史氏には3つの生協の地域社会との連携の取り組みから,何を学び,何を普遍化していくのか,総括的なコメントをいただいた。
今回の全国研究集会は政府の審議会等で超多忙な先生方,また消費者のくらしをめぐる厳しい状況の中で日々格闘している生協トップリーダ‐の方々にご報告いただいたことに深く感謝することにしたい。
(栗本 昭)
主な執筆者:神野直彦,宮本太郎,橘川武郎,大沢真理,上田正,吉田洋一,佐藤利昭,芳賀唯史
目次
- 巻頭言
- 古典の効用(生源寺 眞一)
- 特集:経済危機とくらし―生協の理念と地域社会との協働―
- 分かちあいの経済学と希望の構想(神野 直彦)
- 参加保障とアクティベーション 「複合的危機」を超えて(宮本 太郎)
- 地域経済活性化と雇用創出――農商工連携と外部需要の呼び込み――(橘川 武郎)
- 3つの講演へのコメントとまとめ(大沢 真理)
- 生協制度による相談・貸付事業(上田 正)
- コープさっぽろのソーシャルビジネス――フード・デザート対策と環境経営――(吉田 洋一)
- 地域社会との協働に生協の理念をどう生かすか(佐藤 利昭)
- ディスカッションを終えて(芳賀 唯史)
- 研究と調査
- 生協商品論(大木 茂)
- シリーズ・地域社会と生協の連携(9)
- 議論を重ねて多重責務問題に取り組む――グリーンコープ・生活再生相談室の現状――(山口 浩平)
- 海外のくらしと協同No.18
- 米国医療保険の概要(秋山 憲行)
- 本誌特集を読んで
- 新刊紹介
- 生源寺眞一著「農業がわかると、社会のしくみが見えてくる」(安藤 弥生)
- OECD編著「社会的企業の主流化」(栗本 昭)
- 研究所日誌