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生活協同組合研究 2010年12月号 Vol.419
特集:税を考えるための基礎
いうまでもなく税制は国家の根幹を規定するものである。本来,民主主義国家を標榜するならば,すべての有権者が実態に即して制度の大筋を理解し,収税と使用用途を把握していることが前提であり,それなくして,公正な制度設計は望むべくもなかろう。そのためには,近視眼的な個々の損得勘定に終始した議論から一度離れて,根幹に立ち戻る時期なのではないか。
そこで,本特集は,税制を考える上の基礎・土台を提供しようとするものである。幸い,大変強力な執筆陣を揃えることができた。
星野論文では,ここ20~30年間の日本における税制の変遷と問題を包括的に描き出している。おおよそ1980年代全体を通じ,グリーン車には「通行税」があり,外食で1人当たり2500円ないし宿泊で5000円を超えるとその10%が税(地方税)として賦課されていた。酒,日本酒なら特・1・2級,ワインなら従量税・従価税,焼酎なら甲類・乙類と記憶に残る。これらは後に統合・廃止されていくが,本論文はその背景も教えてくれる。
立岩論文では,所得税をめぐる既存の議論,とりわけ累進性を強化すると個人や法人が国外へ逃避してしまうという主張の妥当性を根本から検討し,「会費」のような性質を帯びてきた税・社会保険について,また,税制の視点から見たときの「分権化」論議の危うさまで,徹底的に整理し,独自の論を展開している。
中原論文では,そもそも税とは何かという議論について,税が「国家と国民をつなぐ紐帯」であり「国民連帯」という観点から税制を論議すべきであることを,日本社会の諸矛盾の検証をもとに原理的に解明していただいている。
田中論文では,世界の貧困や地球規模の課題に対峙するための新しい資金調達メカニズムとして,世界的に注目されており既に一部の国で施行されている「国際連帯税」の状況と今後を論じていただいた。本号発行の直後,12月15~17日に,政府レベルの「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ」の第8回総会と関連する国際シンポジウムが東京で開催される予定なので,予備知識としても有用であろう。
この4篇で提示される論点は、長い目で税制論議を見る際にも有効であろう。税を考えるための「保存版」基礎資料としてご活用いただければ幸いである。
(鈴木 岳)
主な執筆者:星野泉,立岩真也,中原隆幸,田中徹二
目次
- 巻頭言
- 人類史展開の現段階と大学生協の大きな役割(庄司興吉)
- 特集:税を考えるための基礎
- 税収確保を怠ってきた減税の30年(星野 泉)
- ためらいを一定理解しつつ税を直す(立岩真也)
- 社会保障財源はなぜ確保できないのか――課税の正統性からみた「政権交代の社会経済学」――(中原隆幸)
- 国際連帯税をめぐる世界と日本の動向,今後の展望――トービン税からグローバル通貨取引税へ――(田中徹二)
- 研究と調査
- 市民による多重責務者支援事業の現状と今後の役割(宮坂順子)
- コープおきなわの離島共同購入(林 薫平)
- 海外のくらしと協同No.17
- ICAアジア太平洋地域北京総会――2012年・国際協同組合年に向けて――(宮沢佳奈子)
- 新刊紹介・私の愛蔵書
- 本多良一著「ルポ 生活保護」(松本 進)
- 川島四郎・サトウサンペイ共著「食べ物さん,ありがとう」(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで
- 研究所日誌