生協論レビュー研究会
 
研究の期間 2008.6-2011.1
研究会の
趣旨・目的
  1. 研究は本来、先行研究の上に積み重ねられるべきであるが、生協についてはこれまでどのような研究・論説が蓄積されてきたかについてまとまった概括がない。そこで本研究会では、生協に関する先行研究を整理・マッピングして、今後の研究のための基礎づくりを行なう。
     
  2. 上の目的から、本研究会では、戦後(特に70年代以降)の生協に関する文献を、事業論・組織論・制度論・経営論などの区分ごとに整理・マッピングする。
研究会の
アウトプット
研究誌面での発表、生協総研レポート、データベース
研究会の構成
座長  大木  茂(麻布大学獣医学部大学准教授)
准教授委員  川島美奈子(静岡英和学院大学 人間社会学部専任講師)
 山縣 宏寿(明治大学経営学部 専任助手)
 井内 智子(東京大学大学院 人文社会系研究科)
 朴  姫淑(東京大学大学院 人文社会系研究科)
 米澤  旦(東京大学大学院 人文社会系研究科)
オブザーバー  生協総研の理事
研究員事務局  鈴木 岳
   林 薫平
研究の期間 2008年6月〜2011年1月
研究会の
日程と内容
第1回
2008/06/06
報告者:藤岡武義氏(生協総研、前専務理事)
テーマ:戦後日本の生協運動への視角
     ――70年代以降を中心に――

本研究会では生協に関する戦後の研究文献をひもといて整理して行く。そのためには、生協事業・生協運動の実態はどうであったのか、各時代的背景の中で理解しておくことが前提となる。

そこで初回は導入として、藤岡武義・生協総研前専務理事に、自身の実務家としての経験に即して戦後(とりわけ1970年代以降)日本の生協について概説していただいた。戦後生協が歩んできた道のりは、小売部門における競争環境・需給関係だけでなく、生協の理念的な基礎である市民運動・消費者運動の温度(興隆・沈静化・新たな興隆)にも影響され、きわめて起伏に富むものであった。その中で、生協運動を貫いてきた一側面として、報告者は、事業(小売事業)における規制緩和を求めると同時に、商品自体についての消費者視点から規制強化を求めてきた点を指摘された。

第2回
2008/07/25
テーマ:研究会のすすめかた

議論の末、戦後日本生協の要素・側面を、以下15個のトピックに代表させることとした

(1) 生協の商品政策
(2) 生協の購買事業
(3) 生協のマネジメント
(4) 生協のガバナンス
(5) 生協の組合員組織
(6) 生協労働
(7) 生協とジェンダーおよびワーカーズ・コレクティブ
(8) 生協と地域福祉
(9) 生協産直
(10) 生協の食料・農業・農村政策
(11) 大学生協
(12) 戦前・戦中期の生協
(13) 戦後期の生協
(14) 労働者福祉運動としての生協
(15) 生協の法制度

今後各回の研究会では、1個ないし2個のトピックについて、60年代後半以降の代表的な論説をレビューしていく。そのさい、社会学・経済学・経営学・歴史学といった、各々の論説の根幹にあるディシプリンには注意を払う必要がある。

第3回
2008/11/5
報告者:大木 茂座長
テーマ:産直と産直論の整理

<研究会の主な内容>

今回は、大木茂座長から、「産直と産直論の整理」と題する報告をいただいた。大木氏は、田中秀樹広島大学教授が論文「産直論の系譜」(田中『地域づくりと協同組合運動』所収)で示された産直論レビューを議論のとっかかりとして、論評を加えつつ独自のレビューを行った。

後半は、大木報告をベースに、今後の研究会のあり方も含めて議論した。実際の生協事業と生協論は、互いに影響しあうが、必ずしも力点が同じでない。生協の諸分野の実際面での動向に注意しつつ、論説の流れをていねいにひもとくことが目標となる。

第4回
2009/1/24
報告者:林 薫平
テーマ:「日本生協連の食料・農業政策史−1980年代以後を中心に」
報告者:鈴木 岳
テーマ:「労働者福祉論に関する文献のレビュー」

はじめに,大木氏の前回報告「産直と産直論の整理」をまとめた今後の基準となる論文を提示した。林氏は、1970年代の「膨らむ食管赤字と減反政策」,80年代「問われる食管・農業構造への態度」,90年代「生協内部の意見分化」,2000年代「05年提言」という段階に分けた文脈で論点整理を行った。ただ,必ずしも,日本生協連のみにこだわらずに議論をまとめたらどうかという意見も出た。鈴木は,1973年から刊行された雑誌『労働者福祉研究』を中心にそのありかた論を抽出した。しかし,雑誌内の議論のみからでは狭隘感がぬぐえず,他からのアプローチも必要と考えられる。

第5回
2009年3月27日
報告者 : 山縣宏寿
テーマ :「生協における職員労働」

はじめに,大木氏の論文を『生活協同組合研究』誌上で2分して掲載されること,以降順次に先行報告者がペーパーを提出する予定が確認された。次いで,川島氏の次回報告「生協の組合員」のすすめ方について,各参加者から検討と指摘がなされた。

続いて,山縣氏による主報告「生協における職員労働」が報告された。山縣氏は,1。生協における職員労働に関する先行研究の整理 2.各時代区分の概要と生協における職員労働に関する議論 3.論点ごとの生協における職員労働の紹介 の流れに沿って,1960年代後半から2000年代に至る4区分の認識のもとに豊富な議論を展開した。参加者からは,賃金面以外の見地にも広げることを希望する議論などが提起された。

なお,それぞれやむを得ない事情とはいえ,参加者の欠席が多かった点は今後の課題として残った。
第6回
2009年5月22日
報告者 : 川島美奈子
テーマ :「生協の組合員論に関する先行研究の整理」
報告者 : 米澤 旦
テーマ :「大学生協論・研究の展開」

川島氏は,市民生協発達期前後における先行研究(戦後,65年から70年代),市民生協拡大期(80年代前半)における先行研究,第一組合員多様化期「転換期」(80年代後半)における先行研究,第二多様化期「生協内組織改革期」(90年代後半から現在),「個」単位期,コミュニティ注目期,他組織との比較期(90年代後半から2000年代前半),コーディネーション注目期(2000年代)と6区分に文献を整理した。まちまちなそれらを区分するための妥当性や整合性について,議論が展開された。

米澤氏は,大学生協の現状と展開,当代の大学生協の経営・運営の性格について論じた論考,大学生協の歴史論,その他の大学生協を素材とする研究の4区分に文献整理を行った。該当文献のレビューとして取り上げる基準をどこにおくか,また,さまざまな大学生協への目配りをどうするか等の議論が展開された。
第7回
2009年7月17日
報告者 : 井内智子
テーマ :「戦前の生協(消費組合)について」
報告者 : 西村一郎
テーマ :「日本における共済論の系譜」

井内氏は,はじめに1990年代〜2000年代までの当該テーマの研究動向を把握した後,1930年代以降の消費組合について,新興消費組合の拡大と指摘した。そして,例として,鉱山・大企業・軍工廠の購買部的な消費組合の発展,城西消費購買組合と公私設小売市場の競合的展開,満鉄消費組合等を取り上げ,社会運動としての消費組合というより,むしろそれらの経営面の強化や組合員の階層に着目した。

西村氏は,1940年刊行の賀川豊彦「日本協同組合保険論」を嚆矢として,以下日本の共済論の系譜を,要点を抜粋する形式で簡潔に整理し取り上げた。但し,資料について1960年代から1990年代にある空白をどう見るかは,今後の課題となろう。
第8回
2009年9月25日
報告者 : 鈴木 岳
テーマ :「生協と社会運動のレビュー」
報告者 : 林 薫平
テーマ :「生協業態の変遷と業態論の展開」

鈴木は,ここでいう「社会運動」の範囲をどこに設定するかという問題意識を示したあと,社会運動という文言及びそれに類して論じる文献を抽出,80年代後半を転換期として紹介した。消費者運動 の文献への目配りを指摘された。

林は,1963年8月号の『生協運動』誌上の座談会「流通革命と生協」をはじめとして,運営資料等の豊富な資料を踏まえつつ,共同購入の動向と盛衰を軸に,時代を追って紹介した。今後は,一般文献・資料の渉猟が課題となろう。
第9回
2009年11月28日
報告者 : 大木 茂
テーマ :「生協商品論」
報告者 : 朴 姫淑
テーマ :「『生協福祉』に対する研究の到達点と課題」

大木報告 は,生協商品論として,1.問題意識,2.生協の展開,3.商品論の議論の枠組み,4.商品議論の展開の4点から検討する。その上で,「生協の社会的行動としての商品化」(1960〜80年代中盤),「生協組合員増大と大規模に対応した品揃え,業態,商品作り」(80年代中盤〜2000年代初頭),「リージョナルチェーンと地域政策、商品政策、組合員参加の再構築の模索」(2000年代初頭より)の3期に区分する。

朴報告は,生協福祉に関して、事例分析・研究が僅少で、その特徴と独自性についての理論構築も不十分、当事者と研究者と政策レベルでの視点が錯綜している問題を指摘する。とはいえ、「生協福祉の理論的根拠づくり」(1980年〜1990年代初頭)、「事例分析と地域福祉・コミュニティ形成の方向(1990年代)、「介護保険と生協福祉の再考」(2000年代以後)の3期に区分、幾つかの論考について、鋭い評価を行った。
第10回
2010年1月23日
報告者 : 米澤 旦(東京大学大学院博士課程)
テーマ :「近年のワーカーズ・コレクティブ研究の動向」
報告者 : 山下智佳(明治大学大学院博士課程)
テーマ :「医療生協の運動展開とその特徴」

米澤報告は,90年代後半以降のワーカーズ・コレクティブを中心として取り扱うものである。ただ,切り口が多様で論点も拡散していることから,年代ごとの整理を避け,むしろ,働き方に注目した研究と,事業体の経営を焦点にあてた研究とに大別して論点を整理した。前者の研究として,担い手の多様化と賃金とキャリア形成,社会的排除への対応,後者として,組織の変化,多様性と類型論,対人社会サービスの提供をめぐる議論,法人化をめぐる議論に区分した。

山下報告は,日本生協連医療部会『50年史』による歴史的区分を軸とする。つまり,医療部会組織以前,医療部会創立から独自方針を待つまで(1957〜67年),構造的基礎形成期(1968〜75年),医療生協の自己認識の確定期(1976〜87年),第1次5ヵ年計画(1988〜95年),地域まるごと「健康づくり」への挑戦(1996〜2005年)に区分,その上で,1.日本の医療生協の特徴 2.医療生協の制度上の位置づけ 3.医療生協の系譜・源流 4.その他の文献としてそれぞれ取り扱った。
第11回
2010年3月23日
報告者 : 川島美奈子
テーマ :「生協ガバナンス論レビュー」
報告者 : 山縣宏寿
テーマ :「生協マネジメント論レビュー」

今回は最終回である。川島美奈子委員は「生協ガバナンス論」、山縣宏寿委員は「生協マネジメント論」を対象としてそれぞれ文献整理を行った。

川島報告は、一般のコーポレート・ガバナンス論の背景として経営者支配や企業不祥事問題を挙げ、また生協ガバナンス論に固有の背景として生協の運営組織・事業組織上の特徴や1990年代の一連の不祥事を挙げた。モデルとして、依頼人・代理人の関係によって組合員と理事会の関係を理解するアプローチや、経営者をすべてのステークホルダーに仕える利害調整者と見るアプローチなどを紹介した。

山縣報告は、生協購買事業の特徴を1970年代以降の時代区分にしたがって整理し、各時代における「生協経営」問題を抽出した。1980年代後半以降の生協事業の伸び悩みの中、経営問題の淵源を組合員組織から購買事業が離れてしまったことに求める論と、サービス向上やサプライチェーン改善を目指す経営改革が遅れていることに求める論が互いに対立するかたちで浮上した。

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