無店舗事業研究会
 

2007年7月〜

1.研究会の主旨・目的

 生協の無店舗事業共同購入・個配は購買事業における中核を担ってきており、年間2兆円近い「食品のルート宅配市場」において2/3のシェアを有している。週に1回注文して翌週配達されるというのが基本的なパターンで、店舗に比べて取扱い品目を絞り込んでいること、注文を受けて発注数量が決まるという特徴がある。

 この研究会では、流通システム特に加工食品の変化の中で生協の宅配事業がどのように進化してきたかをふりかえり、消費者にとって価値のあるビジネスモデルをめざすための課題を提起する。

 具体的なテーマは以下のとおり。

  • 流通システムを構成する主体(製造業―卸売業―小売業)の相互関係。特に、歴史的変遷主導権の移り変わり、協調関係と競合関係、特に卸売業の役割の変化。
  • SCM(Supply Chain Management)の動向。個別企業の枠を越えて、全体最適の観点から消費者ニーズを反映した商品をスムーズに適正価格で提供するための仕組みづくり。
  • 社会の環境変化がもたらした影響情報システム技術の進歩、調達のグローバル化、消費者の安全意識の高まり
  • 食品のルート宅配市場の動向

2.研究会の位置づけ

  • 政策や方針を提起することよりも、問題点や課題の整理など情報提供が主な役割となる。
  • 研究者と生協の実務責任者の相互研究によって、あらたな視点から分析することが期待される。

3.研究会の成果発表

  • 報告書(総研レポート)の発行
    (進行状況によって)公開研究会・研究集会の開催。

座長:木立真直(中央大学商学部教授)
委員:橋本雅隆(横浜商科大学商学部教授)
    菊池宏之(目白大学経営学部准教授)
    矢坂雅充(東京大学経済学部准教授)
    河田賢一(神奈川大学大学院博士後期課程)
    佐保 潔(コープネット事業連合常務理事=事業管掌)
    杉山久資(パルシステム連合会21世紀型生協研究機構事務局長
    (元 連合会商品担当理事))
    佐藤道夫(日本生協連会員支援本部共同購入グループマネージャー)
    内山和夫(日本生協連産直担当)事務局:河原英夫(生協総合研究所研究員)
    林 薫平生協総研客員研究員(東京大学大学院農学生命科学研究科博士後期課程)
    栗本 昭(生協総研理事・主任研究員)








第1回
2007/7/31
本日のテーマ・研究会の趣旨説明、生協事業の概要説明(事務局)・自己紹介(研究分野、問題意識など)木立座長報告
第2回
2007/09/18
杉山久資委員(パルシステム連合会21世紀型生協研究機構事務局長)がパルシステム連合会の無店舗事業の概要を報告した。

(1)個配比率が高く、組合員数の76%、利用高の84%を占めている。(2)オンラインパル(インターネット注文)の比率が高い。受注高の22%を占め、1人1回あたりの利用高は6750円に達している。(3)ライフスタイルに合わせた3種類の商品案内がある。1つの媒体で350品目あり、うち30%が媒体独自の品目。1媒体だけだと大量注文に対応できない場合でも、3媒体に分かれると対応できることがある。商品案内の特徴として、コミュニケーションやメニュー提案に誌面を割き、特に表紙にはセール品を掲載しない。(4)連合会への統合が進み、代金回収も連合会が行なっている。
第3回
2007/10/16
佐保潔委員(コープネット事業連合常務理事=事業管掌)が同連合会における無店舗事業の統合について報告した。

商品案内は「ハピ・デリ」という統一名称に変えたが、産地との関係や地域による消費傾向の差があるので、依然として生鮮食品を中心に県別版を設けている。東京などの都市部では、郡部に比べて酒、米、トイレットペーパー、飲料など重いものやかさばるものの利用が多いが、自動車で買い物する人が郡部に比べて少ないからだと思う。

インターネットによる注文は全体の8%くらいであるが、使いやすくすることが問われている。物流、情報システム、代金引き落としなど、各生協が持っているものを統合していくことも重要な課題である。
第4回
2007/11/05
黒河内剛氏(マーケティング総合研究所)が食品の宅配事業について報告した。

広域で定期的な配達ルートをもつ食品のルート宅配の市場規模は1兆9200億円で、牛乳、食材、完成食、有機野菜、冷凍食品を取り扱っているが、2/3を占める生協は品揃えの幅広さの点でも群を抜いている。

ルート宅配以外にスーパーやファーストフード、ピザチェーン、寿司などの宅配があるが、あくまで店舗が主で、対象はその近隣に限定されている。スーパーの宅配は、ネット宅配(インターネットで注文を受けて近くの店から配達する形態)と配達サービスがあり、前者は生協の無店舗事業と同様に、商品を見て選べないので、鮮度が悪ければ不信を買う心配がある。小さい子どものいる専業主婦の利用が多い。後者は店舗で商品を選べる強みがある。高齢者に人気があり、重いもの・かさばるものの利用が多い。
第5回
2007/12/11
流通経済研究所主任研究員の後藤亜希子氏が「日本におけるネットスーパー――運ぶ小売業の展開状況と今後の課題」について報告した。

スーパーマーケットや量販店のネットスーパーは、2000年に西友が開始して、一時ブームになったが、2001年にいったん下火になった(センター型の失敗、高コスト)。2006年以降、再び活発になっている。システムを自社で構築している企業と外部プラットフォームを利用している企業があり、顧客からの注文も、各店で受けている企業と集中して受けている企業に分かれる。
第6回
2008/01/15
イトーヨーカ堂のネットスーパー事業(イトーヨーカ堂企画室総括マネージャー・松下伸吾氏)

イトーヨーカ堂企画室総括マネージャーの松下伸吾氏に、同社のネットスーパー事業について報告いただいた。事業システムは、利用者がインターネットを使って注文し、店に陳列している商品をピッキングして梱包し、受注後最短3時間で宅配するというものである。利用者は30〜50代の専業主婦が中心で、高齢者は予想していたほど多くない。売上の大部分は食品で、飲料や米など重量物の割合が高いのが特徴である。店舗と同じ価格で販売している。12月末時点で77店舗が実施し、首都圏の比率が高い。お届けするまで品質を損なわないよう包装には気を遣っているが、過剰包装という不満もあり、コストもかかるので、改善課題となっている。次回は2月5日開催予定。
第7回
2008/02/05
中間流通における物流の変遷(菊池委員)

研究会メンバーである菊池宏之・目白大学経営学部准教授が「中間流通における物流の変遷」について報告した。

物流に関して、メーカーは売れたものを運ぶと考えるが、小売業はこれから売れる分だけ運んでもらうという感覚である。メーカーは頻度を少なく一度に大量に運ぼうとするが、小売業は在庫を持たないよう少量ずつ多頻度の配送を求める。この違いの折り合いをつけて、全体の効率化を図るのがSCM(Suppky Chain Management)の目的である。

かつて卸売業が両者の仲立ちをすることが多く、商品は小売業の物流センターを通過するだけであったが、卸抜きが増えて物流センターで在庫機能・加工機能を担うようになった。これからはさらに中間在庫を削減するために、メーカー自身がこれらの機能を備え、物流センターは通過するだけのものになることが期待される。

第9回
2008/3/18
「無店舗事業における店舗活用」矢坂雅充(東京大学経済学部 准教授)

無店舗の購買事業は,伝統的な班配(共同購入)から,班を持たない個配へとその形態を変えてきている。

この変化は,働き方や家族形態,そして地域社会における人間関係の変化に即したものであるが,一方で,人と人の触れ合いという「生協らしさ」を希薄化させることにもなった。このような傾向のなかで,さいたまコープの「ステーション」事業や,生活クラブの「デポー」事業に注目する。これらは,生協が地域の商店街などに小さな集配拠点を置き,組合員が引き取りに行くものであり,個配でも班配でもなく,店舗でもない購入事業のあり方である。

現代の社会的環境に合っていて,しかも伝統的な「生協らしさ」を発揮する購買事業はどのようなものだろうかと考えるとき,こうした事業形態はヒントになる。

第10回
2008/4/15
食品流通業界の現況を、卸売業に着目して考える 小野田六郎氏(菱食 SCM推進部 副本部長)

変化の激しい食品流通業界の現況を、今回は特に卸売業に焦点を当てて議論した。

現在、消費者ニーズの変化や流通技術・情報技術の向上によって、生産者と小売業を結ぶ流通システムが大きく変わりつつある。消費者が生産者と様々なチャネルを通して結びつくことによって、中間的な卸売業の伝統的な役割は縮小している面がある。しかし一方で、資源や環境の制約が厳しさを増している現在、生産と消費のあいだをとりもつ部門には新たな意義も見出される。

第11回
2008/5/13
報告者:竹本 徳子氏(カタログハウス エコひいき事業部)
テーマ:地球温暖化時代の買い物を考える

今回は、通信販売業の実務家をお招きして、通販におけるカタログの意義について討論した。通信販売業にとって、カタログは、売り手の主張を商品宣伝以外の部分で盛り込める媒体である。そこで特色を出すことができる。例えば、消費者の購買行動をあおるような20世紀型の販売促進戦略と対照的な方法として、環境問題・エネルギー問題に対する取り組みなどを積極的に打ち出すことが、顧客獲得につながる可能性がある。そのさいカタログという媒体は大きな可能性をもつ。

一方で、こうした商品自体の質や付随サービスと関係ない部分でのアピールは、消費者にはそれほど評価されないという限界も指摘される。そうであるとすれば、小売業者の戦略としては、あくまで第一義的には商品自体への信頼獲得を追求しつつ、それ以外の部分での公益的な主張を併せて行うことで特色を出すという方向に向かうだろう。

第12回
2008/6/10
報告者:橋本雅隆
委員テーマ:事業システムとロジスティクスの方向

今回は、橋本雅隆委員(横浜商科大学 教授)に「事業システムとロジスティクスの方向」と題する報告をいただき、その後参加者で討論した。

小売業にとって、開発・生産・流通・在庫のどの部分を他社に任せ、どの部分を自社で行って利益とリスクをとるかが問題となる。その最適な方法を模索することが“事業システム”をつくることにほかならない。

コスト抑制のために自社企画の海外生産をしながら、開発から納品までを迅速化し、さらに在庫回転率も追求して高いGP(粗利)を実現しているアパレル小売業の事例など、事業システムをつくり込んだ成果として参考となる。

生協無店舗事業に引きつけていえば、例えばPB商品に関わる開発・原料調達・生産から、小売り(個配・共同購入・ステーション)まで、全体をひとつのシステムとしてつくりあげるという論点が提起される。

第13回
2008/7/22
河田 賢一
「生協の経営分析――食品スーパーとの比較、コープネットとパルシステムの比較を中心として」

池田 真志
「地理学的視点からみた無店舗販売の可能性」

今回は、2本の報告である。

第1報告は河田賢一委員から生協の経営分析の試算を出していただき、参加者で討論した。店舗事業と無店舗事業では経営構造が異なるが、後者の中でも、班配を中心とする伝統的な無店舗の事業形態と、ここ数年の傾向に顕著にみられるように、個配が大きな比重を占めるときな事業形態もかなり異なるはずである。経営数値の踏み込んだ分析によって、それぞれの特徴を浮き彫りにすることが今後の課題となる。

第2報告では、池田真志委員から、フードデザート問題を紹介いただき、参加者で無店舗事業への含意を議論した。フードデザートとは、大型小売店が撤退することによって、とりわけ自家用車をもたない住民の消費生活の利便性が著しく損なわれた状態を指す。店舗型の小売業が撤退せざるをえなくなった状況のもとで、無店舗事業へのニーズが生まれるだろう。今後、日本の小売業界において寡占状況や店舗展開戦略がどう推移するかを問題の背景として注視する必要がある。

第14回
2008/9/2

報告者1:佐藤道夫さん「2007年度全国無店舗事業調査の報告」
報告者2:林 薫平「成果報告書の骨子案」

前半では、佐藤道夫氏から、2007年度に行われた全国無店舗事業概要調査の集計結果を報告いただいた。個配と共同購入の比率や、配送コストの動向に関心が集まった。

後半では、事務局から、成果報告書の骨子について提案し、委員と参加者全員で討論した。生協無店舗事業をSCMの観点から分析するという基本路線が確認された。

第15回
2008/10/29

報告者:木立・橋本・菊池・矢坂・河田・池田・佐藤・林
テーマ:「報告書各章のポイント説明」

今回は最終回で、本研究会の成果物について討議した。分担執筆者が各々執筆予定の論文のポイントを説明した。成果報告書には、生協無店舗事業について、SCMを着眼点として共有しつつ、様々な角度からの論稿が入ることになる。年末年始を挟んで3ヵ月後に各章の原稿を提出いただき、その後、座長と事務局で整理・編集を進め、4月の発行を目標とする。

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