2005年度第5回公開研究会 開催報告

ソーシャルマーケティングとは?
――価値の創造に向けて戦略的に動く!――
秋葉 武氏 (立命館大学産業社会学部 助教授)

2006年3月17日

■趣旨

 ソーシャル・マーケティングとは、商品の売上を上げることのみをミッションとするだけではなく、商品やキャンペーンの社会的な価値を合わせて、「社会的な発展にむけて」社会の価値を変革していく戦略です。価値創造には、それが正義であるかどうかを常に判断していかなければならない側面があります。次のような例には共感しませんか?

  • ピンクリボンキャンペーン
  • 「ほっとけない」運動
  • 男女共同参画のキャンペーン
  • フェアトレード
  • 安全安心な食べ物を食卓に

 今の世界において、生協が物を売ったり世の中に何かを訴える場合、マーケティングだけではなく、社会性を考えたマーケティングとしてのソーシャル・マーケティングを学ぶことは大切なことです。これからの市民に共感してもらえる戦略をもてるよう、学んでおくべき視点だと思います。

■講師略歴

 明治大学大学院政治経済学研究科博士後期課程修了。学部在学中に人権NGOに関わるようになり、その後民間のNPO支援センタースタッフ等を経て、2001年4月より現職。専門はNPO・NGO論。若手研究者として生協に関心を持ち続けている。『21世紀型生協論―生協インフラの社会的活用とその未来』日本評論社 (2004-06-10出版) 共著などある。

■内容

<レクチャー骨子>

0.自己紹介

  • 組織論のアプローチから生協への関心
  • 「組織と人」 との関係をテーマにすると生協は極めて興味深い組織
  • 報告者の生協へ対する問題意識

 生協は優れた人材を有している。しかし、1980年代以降、組織は外部環境に適応できず、ガバナンスの不在が表層化してきた。1990年代以降、一部の生協を除いてそれに対応してこなかった。

1.はじめに

2.CSR におけるソーシャル・マーケティングの位置づけ

3.ソーシャル・マーケティング台頭の背景

 (1)日本におけるマーケティング・コンセプトの変遷

 (2)ソーシャル・マーケティングの歴史

 (3)ソーシャル・マーケティングの 具体化

   [1]Social-oriented Marketing(社会志向のマーケティング)

   [2]Nonprofit Marketing(非営利組織のマーケティング)

   コトラーらによる「企業と同様、全ての組織にマーケティングは有効」

4.ソーシャル・マーケティングの具体的事例

 (1)アメリカの事例 アメリカン・エキスプレス社

 (2)日本の事例

  • (株)イオンフォレスト(ボディショップの運営)
  • (株) フェリシモ
  • NGO ほっとけない世界の貧しさキャンペーン(ホワイトバンド)

 (3)成功のポイント

5.ソーシャル・マーケティングと生協――成功する前提条件――

 (1)マーケティング組織としてみた生協

 (2) 現在の課題

   外部環境が変化した結果、マーケティング戦略という概念の弱さが表層化

  概念を矮小化する組織文化が形成されている 

 (3) 方策はあるのか?

6.最後に

■研究会出席者から秋葉氏への質問に、メールにて回答いただきました。

Q.生協の職員の参加の内実についてはどう思われるか?

A.民間企業の社員と比較して、実際には生協職員の「参加の内実」は高くないでしょう。生協は、職員が参加する様々な「制度」が発足当初から整えられていました。しかし、このことは外部環境が変化したのに、それに適合した職員参加の制度改正や組織ガバナンスの課題に向き合うことを忌避する傾向を助長したと思います。これは職員の参加だけでなく、組合員の参加も同様です。

Q.アメックスの事例で、キャンペーンにからむアメックスの収支は?
社会貢献の理念のみで行ったのか、企業利益を念頭に行ったと分析されるか?

A.企業ですので、当然利益を念頭にしてキャンペーンを開始し、その後成功しました。従来、相反するとみられていた利益追求と社会貢献を両立させたことで、アメックス社は高い評価を得たのです。 「両立」こそがソーシャル・マーケティングといえるでしょう。

Q.現代マーケティングの次の志向の兆しは何かみられるか?「関係性志向」「社会志向」の次、の兆しです。

A.次の大きく目立った兆しはみられません。現在のところ、この両者の志向は引き続き強いでしょうし、次に登場する志向もここから派生したものと推測されます。 

■報告の詳細については、『生活協同組合研究』2006年7月号(vol.366)所収の論文をご参照ください。

BACK



copyright (C)2003 [Consumer Co-operative Institute of Japan] All rights reserved.