社会的経済研究会
 
期間 2008.4-2010.3
研究会の
趣旨・目的
 グローバル化の中で拡大する社会的排除に対抗する主体として「社会的経済」は公共経済,民間営利経済とならぶサードセクターとして注目を集めつつあるが,日本におけるセクターとしての認知度,凝集度は低く,体系的な研究も行われていない。社会的経済セクターの規模の統計的把握と生活保障機能(雇用創出効果、労働市場挿入効果、地域経済波及効果を含む)について評価を行ない,今後の制度改革の方向について問題提起を行うことを目的として研究会を設置する。この分野については協同経済研究会(95〜98年),社会的経済システム研究会(99〜01年),「生活の協同」研究会(02〜05年)の成果を引き継ぐ。

 さらに、大沢教授を代表とする科研費基盤研究プロジェクト「生活保障システムの比較ジェンダー分析」(2007−2009年度,比較対象は、日・韓・独・瑞)からの研究補助を受けて研究会報告のエッセンスを作成する。

研究会の
アプローチ・方法
社会政策・農業経済・地域経済論などによる学際的アプローチ
委員・各分野専門家からのヒアリング,研究会での討議
研究会の
アウトプット
科研費研究プロジェクトに対して中間報告を行う。
生協総研レポートまたは単行本で最終報告を行なう。
研究会の構成
座長  大沢真理(東京大学・社会政策)
委員  福士正博(東京経済大・環境経済学)
 今井貴子(東京大学・政治学)
 田中夏子(都留文科大学・地域社会学)
 桜井 勇(JA総研)  
 栗本 昭(生協総研)
事務局:山口
研究の期間 2008年4月〜2010年3月
研究会の
日程と内容
第1回
2008/04/14
研究会のすすめ方の確認
「逆機能する生活保障システム」(大沢真理)

今回は、第1回目の研究会ということで,まず,自己紹介とともに今後の研究会の進め方を議論した。議論の中では,社会的経済を従来型の経済システムに取り込まれない形での存在意義の確認をする必要性なども指摘された。その後,座長である大沢真理氏から,「逆機能する生活保障システム」と題する報告を頂いた。報告では,従来型の社会保障システムが新しい社会的リスク,あるいは社会的排除という現代的な課題に有効に対処し得ない,また雇用の側面からも逆機能をおこしている現状が多様な側面から指摘された。さらに,この研究会においては,その対抗軸としての「生活の協同」や協同組合の役割を統計的にとらえることの重要性が指摘された。
第2回
2008/05/19
「EUの社会的経済報告書について」(大沢真理)
「協同組合・共済のサテライト勘定に向けて」(栗本 昭)

今回は、CIRIECがEUと協力して社会的経済に関する研究報告として出版した『社会的経済の企業と組織:雇用のための戦略的挑戦』(2000年),『EUの社会的経済』(2006年),『EUの社会的経済のサテライト勘定作成マニュアル』(2006年)について,大沢座長と栗本が解説を行った。日本における社会的経済の統計的把握と生活保障機能の分析が研究会の目的であるが,それぞれについての問題点が指摘された。
第3回
2008/06/16
「イタリアの社会的経済の地域社会に対する波及効果」(田中夏子)

今回は、田中夏子委員(都留文科大学)より,イタリアの社会的協同組合の現況と近年の動向についての報告を頂いた。報告の中では,最近の社会的協同組合の政策的な位置づけの強化を,福祉政策・労働政策のインパクトから説明するとともに,中間支援組織であるコンソーシアムの機能,さらに「社会的企業法」の施行による今後の方向性など,多様な角度からイタリアにおける社会的経済の動向を探るものとなった。
第4回
2008/07/14
今回は、以下の二つの報告を頂いた。

韓国iCOOP生活協同組合研究所の金亨美氏からは,韓国における生協の成立過程と現在の動向をデータを踏まえながら概説頂いた。特に,韓国における協同組合セクターの凝集性の低さと,連合会単位で分断化している状況,そして,組合員の層がハイクラスに集中している状況などが示唆的であった。

協同総合研究所の岡安喜三郎氏からは,昨年成立した韓国の「社会的企業支援法」を踏まえ,現状の社会的企業の登録状況やその報告性,そして歴史的に見てどのような労働政策・社会保障政策の中で社会的企業が位置づけられているかのご報告を頂いた。
第5回
2008/09/30
福士 正博氏(東京経済大学)
「社会的質(social quality)概念の可能性:社会的経済の視点から」

今回は、福士正博委員より,「社会的質(social quality)概念の可能性:社会的経済の視点から」と題する報告を頂いた。その内容としては,1990年代以降本格的に研究科開始された「社会的質」の概念の内容と意義を明らかにすること,およびそれをとおして社会的経済論の可能性を探ることである。今回の報告では,EUを資金源とした研究ネットワークであるEFSQのこれまでの研究をレビューし,特に基礎的な理論を中心に紹介頂き,論点を抽出した。次回10月20日。
第6回
2008/10/20
「『新しいイギリス・モデル』の政治」(今井 貴子)

今回は、今井貴子委員より,英国の長期失業対策として注目されるILM(媒介的労働市場)の概要を報告いただいた。ILMは、衰退地域の長期失業者を対象として、低技能や意欲喪失によって一般の労働市場に参入できない問題を克服するべく半年から1年のサポートを行うプログラムである。公共的バックアップのもと、主として社会的企業によって担われている。就業支援の効果については定評がある一方で、社会的企業の活動が政府の公共政策の枠組みにはまりこんでしまうことや、プログラムを終了した労働者が定職をえるには結局、別途雇用創出政策が必要であることなど、注意すべき点はある。
第7回
2008/11/17
報告者:山口浩平
テーマ:『ICA協同組合研究会議の報告と日本における生協と新しい協同組合との関係についての示唆』

今回は山口浩平より, 10月15日〜18日にイタリア,リバ・デル・ガルダで開催されたICAの協同組合研究会議の主要な論題についての報告を行った。特に東欧諸国の社会的経済への関心と,西欧における社会的経済の理論的な進展についての論点を中心に紹介した。

また,合わせて,日本における社会的経済を今後検討する上で,ワーカーズ・コレクティブなどの社会的企業を支援する協同組合の再評価等の論点を提起した。

第8回
2008/12/15
報告者:米澤旦
テーマ:『労働統合型社会的企業についての検討―共同連の活動を中心にして』

今回は米澤旦氏(東京大学大学院)より,日本における社会的企業の形態を位置づける上で,共同連の組織と事業について報告を頂いた。報告では,前提となる社会的企業アプローチや,障害者の雇用をめぐる動向の説明があった後,共同連という労働統合型社会的企業(WISE)の事例を紹介するとともに,社会的企業研究が独立/媒介モデルという二つのアプローチに区分可能なことを示し,共同連の検討を通じてWISEの混合的性格を示して頂いた。

第9回
2009/1/19
櫻井勇『農協の統計的把握と社会的取り組み』

今回は櫻井勇委員より,社会的経済の一主体としての農協の現段階を,統計を活用しながらご紹介頂いた。また,農協の今後の地域貢献を考える上でのソーシャル・キャピタル概念について,2008年に実施した意識調査とその分析を紹介頂いた。議論の中では,生活指導のような地域に根ざした活動の減退傾向をどう見るのか,あるいは女性部を中心とした事業との連携がどうあるべきか,などの論点が出された。

第10回
2009/2/23
桜井政成
『生協とソーシャル・キャピタル:パルシステム千葉調査をふまえて』

今回は桜井政成氏(立命館大学)より,2008年にパルシステム千葉の組合員を対象として行った,意識調査結果とその分析に関する報告を頂いた。調査の視座としては,特に都市型生協におけるソーシャル・キャピタルの醸成がなされているのか,あるいは参加的な特徴等を有しているのか,といった問題意識があった。その分析結果として,生協への信頼感や活動参加意欲,あるいはパルシステム千葉の活動参加の決定がどのような要因によって導かれているか,多様な角度から示唆があった。本研究は生協総研の研究奨励に基づいて行われたものであり,詳細は3/14の報告会でも発表される。

第11回
2009/3/16
中西正司
『自立生活センターの歴史と理念・日本の福祉予算』

今回は中西正司氏(全国自立生活センター協議会)より,同センターの理念,活動と事業の概要および当事者のニーズを前提とした社会保障制度に関する提言の報告を頂いた。全国に118ある自立生活センターがどのように形成され,どのような理念で運動と事業を行ってきたのか,詳細な説明があった。また,今後,障害者の当事者運動のみならず,財政の構造を踏まえてどのような制度が望ましいのか,活発な議論が行われた。

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