刊行物情報

生活協同組合研究 2018年10月号 Vol.513

賀川豊彦を現代に語り継ぐ ─ 賀川豊彦生誕130周年記念事業

 今年は、生協・協同組合の父賀川豊彦の生誕130周年にあたる。賀川豊彦という人物に、角度を変えながら光をあて、現代に語り継ぐ意義を探ってみた。

 山折論考では、賀川豊彦の思想にはその時代的限界や問題点が多くあったことを前提に論じていただいた。彼ほど光と影とのコントラストが際立つ人物も数少ない。賀川の思想と実践は、永遠の現実を乗り越えよと我われに訴える。

 鳥飼論考では、百年前の「死線を越えて」の時代観を伝えてほしいとお願いした。賀川豊彦はスラムに移り住み、日常的に刀やピストルで脅迫され、命の危険にさらされたが、それでも幸福だった。彼は、良寛さんのようにたくさんの子供たちに慕われ日が暮れるまで遊んだ。スラムで明日の糧にも困る人たちが、病人にはあるものを分け合い親身に面倒を見る、極貧の中でも困った者同士が助け合う絆があった。そこに「貧しい人たちは幸いである」をみた。

 伊丹論稿では、協同組合の角度から賀川豊彦の足跡を時代ごとに光をあてていただいた。賀川は欧州各地で協同組合による平和を訴えて回った。それが多くの共鳴者を呼び、やがてEC(欧州共同体)へと結実していった。

 岩田論考では、賀川豊彦の妻、同労者の一人、豊彦と同年生まれで共に生誕130年である賀川ハルに光をあてていただいた。豊彦との出会いによってハルの人生が劇的に変えられていく。我われも賀川につながる同労者の一人である。

 松野尾論考では、賀川豊彦の描いた社会構想は、柄谷行人氏が説く「交換様式D」の社会(互酬の原理を高次に回復した社会)につながると結ぶ。柄谷はいう、交換様式Aは呪力、交換様式Bは王=祭司の権力、交換様式Cは貨幣の物神崇拝として、個々人にとって超越的なものとしてあらわれる。そしてこれら交換様式A・B・Cを超える交換様式Dは、個々人のアソシエーションとして相互扶助的な共同体を創り出す。国家や民族を超えて……。

 コラムでは、松沢資料館副館長杉浦氏に、協同組合横断での「カガワ協同組合スクーリング」の取り組みを紹介していただいた。また、青竹氏には、今年4月に発足した日本協同組合連携機構(JCA)の紹介と今後の協同組合間連携への期待を語っていただいた。

 賀川豊彦は、地図なき現代に我われが向き合う方角を指し示す。彼は苦難をも誇りとした。「苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生む。希望は私たちを欺くことがない」とあるように。「未来ハ我等のものな里」、未来は我らのすでに“at hand”(手元)にある。彼が理想とした社会は、まだおぼろげだが、我らの一歩が未来をかたちづくる。「同志よ!共に歩まん。」賀川は語り続ける。

(菅谷 明良)

主な執筆者:山折哲雄、鳥飼慶陽、伊丹謙太郎、岩田三枝子、松野尾 裕、杉浦秀典、菅谷明良、青竹 豊

目次

巻頭言
持続可能な開発を目指して(蓮見音彦)
特集 賀川豊彦を現代に語り継ぐ ─賀川豊彦生誕130周年記念事業
賀川豊彦 いま いずこ(山折哲雄)
死線を越えて我は行く(鳥飼慶陽)
協同組合運動を軸とした賀川豊彦の思想と実践─素描(伊丹謙太郎)
賀川ハル ─女性のライフキャリアプランからみるハルの生き方─(岩田三枝子)
賀川豊彦 ─希望の経済(松野尾 裕)
コラム1 「カガワ協同組合スクーリング」について(杉浦秀典)
コラム2 賀川豊彦・ハルの生涯と活動(年表)(菅谷明良)
コラム3 先人たちの思いを受け継ぎ持続可能な地域社会づくりへ(青竹 豊)
海外情報
第13回国際サードセクター学会(ISTR)会議 参加報告(中村由香)
時々再録
スマホを以て,スマホを制す(白水忠隆)
研究情報
「協同組合関係研究組織の交流会」創設と近況(鈴木 岳)
本誌特集を読んで(2018・8)
(藤方正浩・山田泰蔵)
研究所日誌
公開研究会「生協は若年層にどう向き合うか」(11/22・京都)
公開研究会「大学生の読書を考える」(11/30・東京)
公開研究会「韓国の生協」(12/12・東京)