刊行物情報

生活協同組合研究 2015年5月号 Vol.472

特集 : 地域の課題と福祉を支えるしくみ

 生協総合研究所は地域課題を検討する研究会を立ち上げるべく,2014年9月から内部で議論を進めてきた。そして2015年1月に開かれた第1回研究会で片山善博氏(慶應義塾大学教授)に講演を頂き,その内容を編集部がまとめ本号に掲載した。氏は政府の進めようとしている「地方創生」政策にも言及しつつ現在,地方(例として鳥取県)がおかれた状況の課題を経済面から分析,貿易収支にたとえると「赤字」であること,地方のとるべき道としてこれを克服するための具体策について示している。川上論稿は身近な地域福祉のしくみの一部でありながらあまり知られていない民生委員の制度について紹介,民生委員の働きに対する社会からの要請は強まる一方で,活動を阻害するさまざまな要因も増えていることを示している。

 渋谷論稿は全国の市町村に設置されている社会福祉協議会について,活動の目的,内容や特徴,そして今後の展望としてより地域に開かれた福祉活動の必要性を述べている。

 続く4本の原稿は地域における市民組織を中心とした日常生活の中のさまざまな相互支援活動について報告するものである。栃木県の事例では,始まってまだ日が浅いものの,相互支援活動を通じて地域で人々の支え合う力が弱まっているのが改めて発見されるという重い指摘がされている。また山形県の事例では協同組合組織による相互支援活動や日々の買い物に困っている中山間地域への移動店舗などについて紹介している。ここからは人口減少地域の生活の厳しさがうかがえるが,子どもだけでなく成人男性も対象の食育など,食の豊かな地方ならではの動きもあることが分かる。大牟田市の事例では,認知症などで道に迷った高齢者を地域全体で助けられるようネットワークを構築しただけでなく,訓練も行われていること,またこれをきっかけに地域全体を見守るつながりの始まりが報告されている。松戸市の事例は市内の一部地域であるが,「地域ぐるみで子どもを育てる」という実践が多世代の活発な交流につながっていることを示している。

 このように「地域」も「課題」もその対象は多岐にわたり, 「福祉を支えるしくみ」もまた時の経過とともに変化していることがわかる。最初に述べた弊所研究会でも,どのような「地域」の,どのような「課題」を研究するのか,まだ定まっていない。生協総合研究所では今年度1年間,深く掘り下げて調査すべき対象を探るために研究会や調査を行い,その成果も折にふれ本誌に掲載する予定である。

(山崎 由希子)

主な執筆者:片山善博,川上富雄,渋谷篤男,竹内明子,崎谷徹夫,池田静枝,杉村純子(聞き手:山崎由希子),橘 健司,星 光興(聞き手:鈴木 岳),山田泰蔵,関 英昭

目次

巻頭言
学生同士の「ピア・サポート」と大学生協(古田元夫)
特集 地域の課題と福祉を支えるしくみ
地域の自立と再生に向けて(片山善博)
民生委員制度の現状と課題(川上富雄)
社会福祉協議会──地域福祉推進を目的とする全国ネットワーク組織──(渋谷篤男)
ふれあいコープ(栃木県)の地域福祉活動──「おたがいさま」を中心に──(竹内明子・崎谷徹夫・池田静枝・杉村純子 (聞き手:山崎由希子))
共立社(山形県)の地域に根ざした活動について(橘 健司・星 光興 (聞き手:鈴木 岳))
コラム1 認知症の人と共に暮らすまちづくり──先進地・大牟田市の取材から──(山田泰蔵 )
コラム2 学校と地域社会と教育委員会(関 英昭)
研究と調査:(第2期)生協論レビュー研究会①
東京の生協の年史を読む──地域生協の設立過程に着目して──(三浦一浩)
時々再録
読売テクノフォーラム「発電菌がきりひらく未来のバイオ」(白水忠隆)
本誌特集を読んで(2015・3)
(村井康典・伊藤正志・佐藤利昭)
新刊紹介
斉藤徹,伊藤友里 著『ソーシャルシフト新しい顧客戦略の教科書』(平野路子)
野口武 著『タオルの絆~ “あいち” からこの想いとどけたい』(小方 泰)
研究所日誌
生協総合研究所第2回公開研究会