刊行物情報

生活協同組合研究 2011年2月号 Vol.421

特集:大学と大学生協

 大学生協は,世界の協同組合運動の中でも大変ユニークな存在であり,日本の生協運動の発展に大きく貢献してきた。その存在や果たす役割は,日本社会の中でもっともっと評価されていいと考えている。

 今日,進学率が50%を超えたことでまさしく大学がユニバーサル化し,大学の教育のあり方が問われる時代となった。加えて,18歳人口の減少が続く中,全入時代が近づきつつあり私学を中心に定員不足の大学が続出し,私学の経営問題が注目されている。国立大学は,法人化以後6年を経過し第二期の中期計画期間に入っているが,これまで毎年のように運営費交付金が削られ,待ったなしの厳しい状況が続いている。

 一方で,大学財政への貢献を求められる大学生協では,キャンパスに民間企業やコンビニが導入され,一部撤退もあるようだが,競合状況が進んでいる。多額の累積債務を抱え改善の道が厳しい大学生協の姿や,供給の頭打ちと次年度予算編成で断腸の思いで仕分け判断を進める大学生協トップの声が聞こえてきている。このように大学と大学生協をとりまく情勢が大きく変化している中で,どのようにその変化に対応しているのか,また,今後どのような課題に取り組むのかを明らかにすることが本特集の目的である。

 冒頭で,大学にある大学生協が果たす新しい役割について,全国大学生協連・会長理事の庄司興吉氏から,「21世紀市民社会と大学生協の新しい役割」と題する論文を寄せていただいた。「大学生協は,大学生活の基礎を豊かにしつつ,大学に協力して21世紀型市民の育成をさまざまな形で支援していくとともに,その一環としてとりわけ,学生・院生に,市民の事業としての協同組合を体験させ,将来的には自ら新しい協同組合を起こしていけるような人材を育成することに貢献していかなくてはならない」とし,大学社会のだけではない,日本社会の中での役割の提起がされている。おりしも「国際協同組合年」を来年(2012)にひかえて,時宜にかなった新しい提案である。

 改正生協法を踏まえ全国大学生協連から分離設立された大学生協共済連の会長理事・濱田康行氏からは,「資本主義の現段階における共済理念」をテーマに共済と保険について2つの命題を切り口に論じていただいた。補論として,協同組織が前提としている人間像=プリミテイブな性善説について,事業という現実から考察するとまた違った見方や考え方を求められることが指摘されている。

 「学生どうしの助け合い」として始まった大学生協の共済事業も30年が経過し,幾たびか「共済と保険の違い」や「心温まる助け合いの活動」について論議し,交流してその活動や理念について認識を深めてきたと思うが,21世紀の「生協の共済」にとって必要な事業の理念として再認識すべき視点を与えられたと思う。

 さらに,全国大学生協連・専務理事の和田寿昭氏からは,「大学生協の事業環境の変化と当面の課題」と題し,「2009年度の大学生協全体の事業結果は,私たちにとって衝撃的であった。それは,前年の供給高から約100億円も減少したことであり,過去経験をしたことのない事態であった」こと(第1節冒頭),そこからリーマンショック以降の経営状況とその対策・課題について実践的に報告をいただいた。本特集の眼目でもある。

 京都大学・高等教育研究開発推進センターの溝上慎一氏からは,「大学側から見た大学生協の『学生の学びと成長支援事業』」と題し,大学生協が貢献している1)ピアサポート,2)キャリア形成支援,3)授業外学習・読書の3点から具体的事例について考察していたただいた。大学生協が大学内で大学の使命と教育に貢献している姿がよく理解できる論文となっている。

 大学生協は,2000年以降の10年間だけでも24の大学生協が新規に設立されている。地域生協や他の職域生協では見られない状況で,学生や教職員が新しい生協の設立運動を通じて生き生きとした大学のコミュニティー活性化に貢献している。その魅力やパワーはどこにあるのか,本特集の最後に,2008年12月に設立された釧路公立大学の事例報告を入れている。大学生協の新規設立の経緯から,大学生協という組織の持つ意味を考察している。

 今回の特集全体を通じて大学生協の魅力や現代的役割が一層明確になり,この厳しい環境を克服して,21世紀に挑戦しつづける大学生協のパワーアップに少しでも貢献できれば幸いである。

(松本 進)

主な執筆者:庄司興吉,濱田康行,和田寿昭,溝上慎一,山口浩平

目次

巻頭言
ガラパゴス化とグローバル化(小栗崇資)
特集:大学と大学生協
21世紀市民社会と大学生協の新しい役割(庄司興吉)
大学生協共済連の発足にあたって──資本主義の現段階における共済理念──(濱田康行)
大学生協の事業環境の変化と当面の課題(和田寿昭)
大学側から見た大学生協の「学生の学びと成長支援事業」──大学と大学生協との協働──(溝上慎一)
あらたな生協の創立──釧路公立大学生協を事例に──(山口浩平)
研究と調査
生協業態論の展開──第一次流通革命期から流通規制強化期まで──(林 薫平)
シリーズ・調査データを掘り下げる(13)
「みんなで子育て」に向かって──“母親発” 調査報告『子育ての苦労は子育てにあらず』から──(鈴木玲子・飯島 愛・重本敦子)
海外のくらしと協同No.19
コープスイスの食トレンド調査(大津荘一)
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キャサリン・グラハム著『キャサリン・グラハムわが人生』(藤井晴夫)
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