刊行物情報

生活協同組合研究 2010年10月号 Vol.417

特集:インターネットを利用した事業の動向

 私が調査を担当させていただいているある団体の方が,他部署を呼ぶ時に「ジスイ」と省略されるので,何?とちょっと考える。新流行語で「ジスイ」といえば,自分で紙媒体をスキャンしてPDFファイルなど電子情報にすることを指しており,当て字で“自炊”と書いたり,当初の意味から自吸(自分で吸い上げ)と書いたりするようだが,iPadなど大きめの見やすい画面の機器が低価格で普及してきたので,自吸する機会が多くなって,紙はいらない時代が近づいてきた感がある。夏の旅行の際,機内で隣の大学生のiPadをチラ見したら,書棚に300冊以上のコミックが並んでいて感心した。

 組合員調査などで,生協組合員の満足度の低い項目の1つが価格に次いで「紙が多い」という項目だ。デリバリーシステムでは,組合員の多様性に合った商品や紙媒体の多様化を進めた結果,無駄な紙類が非常に多くなったという実情を反映している。自吸時代には非常に無駄感があり,私の利用している生協ではネット注文をしていてもカタログを断れないシステムで,その点困っている。組合員の高齢化が急速に進展しているので,単純にはスリム化できないことも承知ではあるのだが。

 生協のインターネット事業について今回企画をする上で,各生協のホームページを見比べてみると,大きな差があることが分かる。注文システムも様々で,今回の事例報告の1つであるコープこうべのように紙媒体をそのままサイトにアップしているところもあれば,サイト上に独自の商品案内を設計しているところもある。インターネットではアクセス分析や効果測定が簡単なので,どのような仕組みが組合員にとって利用しやすいのか日々解析する,また,ネットスーパーなどの利用と比較する必要性もかなり高いと考えている。ちなみに私の職場PCで「コープ」でググると,スポンサー以外のヒットではコープこうべ,コープやまぐち,が上位にくる。前者は今回紹介いただくが,イラストふんだんで若い女性組合員を明確にターゲット化している後者もぜひ検索・閲覧いただきたい。

 本誌では,まず,東洋大学の長島氏にインターネット利用による消費者の購買の変化を論考いただいている。次に流通経済研究所の後藤氏に,急速に伸びているネットスーパーについて考察いただいた。欲しいものが買えてすぐに届くというシステムは,本誌前号の「買い物弱者」特集にもつながる論点といえよう。インターネット事業の事例として,日本生協連の茂木氏に日本の生協の課題を,コープこうべの久保木氏に,携帯電話からの利用しやすさや,リコメンド機能を加えて利用が更に伸びているネット注文や購入の仕組みを解説いただいた。

 組合員調査では,インターネット弱者ともいえる層が析出されており格差も広がっているが,インターネットサイトや注文画面は,アクセス可能な組合員層にとって生協との重大なインターフェイスとなりつつあることは間違いないと考えている。

(近本)

主な執筆者:長島広太,後藤亜希子,茂木伸久,久保木勲

目次

巻頭言
イギリス人から観た道の駅(執筆者名)
特集:インターネットを利用した事業の動向
インターネットを利用した購買動向(長島広太)
ネットスーパーの動向と今後の可能性に関する検討(後藤亜希子)
生協におけるインターネット事業の現段階―――宅配事業での活用を中心に―――(茂木伸久)
コープこうべのインターネット事業(久保木勲)
研究と調査
生協と社会運動のレビュー(鈴木岳)
アメリカの農村電力協同組合(デボラ・シュタインホフ(翻訳:藤井晴夫))
シリーズ・地域社会と生協の連携(8)
フードバンクは環境と福祉の隙間を埋める――生協ひろしまとNPO法人あいあいねっとの連携――(山口浩平)
海外のくらしと協同No.15
カナダの社会的経済研究プロジェクトと全国サミット(栗本昭)
文献紹介
井田徹治著『生物多様性とは何か』(大津荘一)
本誌特集を読んで
研究所日誌