刊行物情報

生活協同組合研究 2010年8月号 Vol.415

特集:若年層の就職とキャリア形成

 働くこと,が報われにくくなっている。かつての日本型雇用システム(三種の神器と日本固有の意味でのフレクシキュリティ)が想定し,形成したモデルはすでに溶け落ち,そのひずみは若年層に影を落としている。2000年代に入ってからの状況や言説を辿ってみれば,「フリーター」や「ニート」といったカテゴリーの形成,そして「ワーキング・プア」「ネットカフェ難民」といった貧困の発見,さらには「名ばかり管理職」に見られるような重大な問題である。また,2008年の「派遣切り」は,それまでの派遣労働の自由化路線が内在していた問題を噴出させた結果となった。

 さて,今挙げたような諸課題は,相互に深く結びついたものであり,社会保障システムや教育システム,そして産業構造の変化に伴った政策的な対応が求められていると考えられるが,一方でこの課題を若者という切り口で検討する際には,いわゆる自助努力の欠如が批判されたり,既存の労働市場におけるサバイバルの必要性といった言説との対立構造が含まれている。

 若年者(15~24歳)の完全失業率は依然高く,また,非正規労働の増大は結果的にキャリアを形成できないと同時に,社会保障の対象から抜け落ち,個人としての生活設計上の課題を投げかける。それは個人として,という枠組から,仕事の能力を開発し,家族を形成し,経済のこれからの担い手(納税と社会保障負担を含む)としての若年層という集団としてみたときに,採用を行う企業としてもまた,大きな課題であると認識されるであろう。

 本特集では,小杉礼子氏・金井郁氏には,若年者のキャリア形成においての非典型雇用から正社員への移行という観点で,その実態を事例を含めて紹介頂いている。続いて,岩永牧人氏には若者支援をNPOで取り組んでいる現場から,古村伸宏氏には協同組合としてあらたな働き方を創出しようとする取り組みについて,そして山本求氏には大学生協が果たしている役割をそれぞれ発信頂いている。そして,熊倉瑞恵氏には国際的な視点としてデンマークにおける積極的労働市場政策の事例から,日本への示唆を指摘頂いている。

 多くの生協が,ファミリー・フレンドリーな事業体として認定を受けており,「働きやすい職場」を目指すという方向性がある。次世代を担う生協職員を支援する上では,若者の働き方,そしてキャリア形成に気を配ることが求められるであろう。

(山口浩平)

主な執筆者:小杉礼子,金井郁,岩永牧人,古村伸宏,山本求,熊倉瑞恵

目次

巻頭言
法人元年(関 英昭)
特集:若年層の就業とキャリア形成
若者の職業キャリア──非典型雇用からの正社員への移行を中心に──(小杉礼子)
正社員転換・登用制度の実態と課題──非正社員の処遇改善の視点から──(金井 郁)
ユースポート横濱の取組み事例から──若者就労支援に何が求められるか──(岩永牧人)
若者の「移行支援」「自立支援」機関としてのワーカーズコープの実践(古村伸宏)
大学生協のこれからの10年に向けたチャレンジ──学生組合員の入学から就職まで4年間をサポートする「学びと成長」事業──(山本 求)
デンマークの積極的労働市場政策の動向からみる日本への示唆──1960年代から2000年代初期を中心に──(熊倉瑞恵)
研究と調査
医療生協の特徴と研究動向(山下智佳)
シリーズ・地域社会と生協の連携(7)
「安心して暮らせるネットワークのつどい」からうまれたつながり──コープあいち──(向井 忍)
海外のくらしと協同No.13
「NPT(核不拡散条約)再検討会議」生協代表団に参加して(山内 寛)
本誌特集を読んで
文献紹介
駒村康平編『最低所得保障』(山口浩平)
研究所日誌
公益財団法人生協総合研究所 2009年度事業報告・2010年度事業計画