刊行物情報

生活協同組合研究 2010年7月号 Vol.414

特集:介護保険10周年をむかえて

 本特集は,2000年4月に始まり,3年ごとに改定され,現在第4期を迎えた介護保険制度をめぐり,多角的に検証しつつ,最新事情を提供する内容となっている。実態から理論まで包括的に精通されている第一人者,樋口氏の巻頭論文を皮切りに,地域社会の諸課題とそれに対する生協への期待とその存在意義について明快に主張する千田氏,介護労働の問題点を綿密な実態調査から鋭く浮き彫りにした川村氏,介護サービスの「供給エリア」と「選択の自由」という視点で論じる各国事情に詳しい斉藤氏,生協福祉事業の成果と今後の果たすべき役割を冷静に記す山際氏,地域社会から排除された人々の支援に取り組むことも生協の使命という考えから議論を展開する池田氏,つごう6つの優れた論文を揃えることができた。

 なお,介護保険料について,あまり議論にならない盲点を補足したい。それは,介護保険財政全体の30%を支えている第2号被保険者(40 ~ 64歳)の保険料についてである。これは,医療保険者が医療保険料の一部として徴収するものである。例えば,全国健康保険協会(協会けんぽ)の該当者は,2010年4月納付分より,介護保険料率が標準報酬月額の1.50%の労使折半額(要するに,収入のほぼ0.75%。年収400万円として保険料分は年3万円見当。ちなみに平均健康保険料分は,年18.6万円見当)である。これに対して,各事業所の運営する健康保険組合での介護保険料は,概してこれより低額に抑えられているものが多い。また,このカテゴリーでは,年収130万円以下の専業主婦(夫)の負担は発生しない。

 一方,自営業者や職域の健康保険に加入しえない人々は,居住する市区町村で所得税,住民税,市民税のいずれかをもとに,それぞれ定められている計算式から,国民健康保険料(税)とセットで介護保険料を徴収される。その際,介護保険料の地域差も小さくないが,より地域差の極端な国民健康保険料(=医療分保険料+後期高齢者支援金分保険料)の影響もこうむることになる。この具体的な試算は,住民税や市民税から算定する自治体では,各種控除の按配がからむので大変厄介である。それを前提の上で,平成22年度の年間保険料の一例を以下に挙げておこう(該当年齢のA.単身世帯,B.夫婦子なし世帯。どちらも世帯年収400万円として)。

  • 杉並区(A.国民健康保険分23.0万円,介護分4.1万円<順番は以下同じ>。 B.17.8万円,3.9万円)
  • 札幌市(A.34.8万円,7.5万円。 B.37.0万円,8.0万円)
  • 大阪市(A.31.5万円,6.2万円。 B.34.1万円,6.9万円)
  • 千葉市(A.22.1万円,5.5万円。 B.23.9万円,6.2万円)

 はじめから,重く失礼いたしました。どうぞお読み下さい。

(鈴木 岳)

主な執筆者:樋口恵子,千田透,川村雅則,斉藤弥生,山際淳,池田徹

目次

巻頭言
包摂する社会が危機にも強い(大沢真理)
特集:介護保険10周年をむかえて
新たな改正を控えた介護保険制度──大介護時代の到来を前に──(樋口恵子)
高齢者介護と地域福祉の将来展望,そして生協の意義とは(千田 透)
介護労働は持続可能か(川村雅則)
24時間体制の在宅介護サービスをどう築けるのか──海外事例にみる介護の「供給エリア」──(斉藤弥生)
生協福祉事業の現状と「地域福祉」への取り組み(山際 淳)
地域包括ケアの時代と生協福祉事業の課題,展望(池田 徹)
研究と調査
現役妊婦(プレママ)たちの不安と解決策をさぐる──「妊娠期の生活と意識調査」からの考察──(小林由里子)
海外のくらしと協同No.12
イタリア生協の組合員が参加した省エネ活動(大津荘一)
本誌特集を読んで
文献紹介
正田 彬著『消費者の権利新版』(近本聡子)
青柳いづみこ著『ピアニストは指先で考える』(藤井晴夫)
研究所日誌