刊行物情報

生活協同組合研究 2010年6月号 Vol.413

特集:環境問題が提起する今日的な課題と対策

 1992年「国連地球サミット」(環境と開発に関する国際連合会議)が,ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催され,「環境と開発に関するリオデジャネイロ宣言」(リオ宣言)が採択されるとともに,実施のための行動綱領である「アジェンダ21」と「森林原則声明」が合意された。

 1972年に「国連人間環境会議」(ストックホルム会議)が開催され,またローマクラブ「成長の限界」が出版された。1982年「国連環境計画管理理事会特別会合」(ナイロビ会議),1992年「国連地球サミット」,2002年「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(ヨハネスブルグ・サミット)と10年ごとに地球環境が提起している課題について検討されてきた。

 リオ宣言の採択とともに,「気候変動枠組条約」が採択・署名された。その締約国会議(COP)の第1回が1995年ドイツで開催され,以後毎年開催されており,1997年COP3は京都で開催され,「京都議定書」が採択された。

 また,「気候変動枠組条約」とともに,「生物多様性に関する条約」が採択・署名され,1994年に第1回締約国会議(COP)がバハマのナッソーで開催され,2010年10月11日にはCOP10が名古屋で開催される。

 2009年12月に気候変動枠組条約COP15がコペンハーゲンで開催され,京都議定書の第1約束期間が終了した2013年以降における地球温暖化対策の国際的枠組みの骨格を示した「コペンハーゲン合意」が首脳級会合にて合意されたが,全会一致では採択ができず「留意する」ことを決定した。

 「先進国の温室効果ガス排出の削減義務や途上国の削減行動の枠組みについては,2010年末にメキシコで開かれるCOP16での合意を改めて目指すことになった」(朝日新聞特別取材班『エコ・ウオーズ』朝日新書,2010年,38頁)。「COP15は『足踏み』ではあるが,長い目で見れば前進させる政治的モメンタムは強くなっている,止まってはならないという評価である」(同上,44頁)。

 米国オバマ大統領は,首脳級会合で合意に至った直後の記者会見で,「どの国の目標も科学が求めるものに足りないが,次の進展への基礎を築く,意味ある歴史的一歩。途上国は初めて自主的目標を申し出た。アメリカは法的拘束力を負うものではないが,実行する。科学の要請であり,莫大な経済的チャンスとなるからだ」(諸富・浅岡『低炭素経済への道』岩波新書,2010年,66頁)としている。「『まず実行する』というのがコペンハーゲン合意の真髄であったといえそうである」(同上)。

 また,「中国がコペンハーゲンの会議に参加し,何らかの合意に達したことはきわめて重要である。その理由は,前述の通り,中国が署名しなければアメリカは署名しないだろうし,さらに中国は,いまや温室効果ガスの世界最大の排出国となっているからだ」(ビル・エモット『変わる世界,立ち遅れる日本』PHP新書,2010年,148頁)という指摘にも注目したい。

 日本は,1992年に「気候変動枠組条約」,「生物多様性に関する条約」に署名し,1993年には環境基本法を制定した。1993年本誌1月号の「巻頭言」で,当研究所の大内力理事長(2009年4月18日逝去)は「環境問題への取組み方」として次のように指摘している。「もともと生協は,人間が人間らしい生活のできるような社会をつくることを理想としているのだから,(中略)上述のような政府や多くの国民の姿勢からいえば,それは大変な努力と負担とを覚悟しなければならない運動であったといってもいい。」,「環境問題というのは,なかなか一すじ縄ではいかない複雑な構造をもった問題である。それだけに,それへの取り組みも多面的な配慮を必要とする。あまり単純に,感覚的に取り組むと,かえって運動はすぐゆきづまり,せっかく参加した人々に挫折感を与え,運動そのものが尻つぼみになるおそれが大きい。」,そして,「すべての因果関係が明らかにならなければ行動に移れないなどといっていたら,いつまでたっても傍観者をきめこむしかないことになるであろう」と呼びかけている。

 寺島実郎は,「二〇世紀のアメリカは『自動車』と『石油』を相関させることで,『アメリカの世紀』を創造したともいえる。」とし,1908年T型フォードが誕生してから100年が経過し,「わたしは,『グリーン・ニューディール』が空疎な理念に終わらず,IT革命のような文明のパラダイム転換の可能性を有しているように思えてならない。まだ確信ではないが,そういう予感がする」(寺島実郎『世界を知る』PHP新書,2010年,115頁)と指摘しており,真摯に受け止めたい。

 今回の特集は,諸富教授が提起している「ポリシーミックス」という考えに触発され企画した。「ポリシーミックス」とは,「環境政策の手法であり,経済的手法,規制的手法,情報的手法,自主的手法など,さまざまな手法を効果的に組み合わせて,ひとつの政策パッケージにすることである」(諸富・鮎川『脱炭素社会と排出量取引』日本評論社,2007年,85頁)。

 諸富氏は,「これまでの日本の温暖化対策の特徴をなしていた自主的な排出削減の取り組みから脱却し,排出量取引制度や環境税のように,市場メカニズムの中に環境保全を促す政策手段を組み込むこと」を提起している。

 一方井氏は,経済的手法の中核となる排出量取引制度を日本において確立し,市場メカニズムとして機能させるための条件を提起している。「気候変動問題の深刻化・切迫化を考えると,日本でもいつまでも議論ばかりして現状にとどまるのではなく,とりあえず解決に向けた一歩を踏み出し,問題があればその都度克服していくという現実的な対応が重要」としている。

 山地氏は,(財)電力中央研究所経済社会研究所研究主管を経て,東京大学大学院工学系研究科教授としてエネルギーシステム論を指導され,本年3月に退官し現職に就任された。スマートグリッドは,いまや毎日の新聞紙上で欠かすことが出来ない用語となっているが,私たちのくらしとどのような関連があるのかは,充分に理解されていない。この論文をとおして,新しい技術が意味していることを理解する一助としていただきたい。

 道家氏は,国際自然保護連合(IUCN)の日本委員会の事務局担当職員として,COP10の取り纏まとめに奔走されている。この論文を仕上げた直後からケニアのナイロビでの準備会に出席し,この研究誌を発刊するころに帰国とのこと。「生物多様性」という極めて分かりにくい内容を,平易な言葉で率直に示されている。

 柿澤氏は,森林環境の視点を地域社会や経済活動にまで広げ,ガバナンスの構築として森林環境の保全問題を示している。また,コープさっぽろ「コープ未あした来の森づくり基金」の取り組みが森林環境保全のなかでどのような位置にあるのかについて言及している。

 鳴海氏は,コープの洗剤を製造・販売する中で環境保全の取り組みを開始した。京都メカニズムと称されるCDM(クリーン開発メカニズム)による二酸化炭素排出削減の取り組みを現場から報告いただいた。

(清藤 正)

主な執筆者:諸富 徹,一方井誠治,山地憲治,道家哲平,柿澤宏昭,鳴海清司

目次

巻頭言
消費者教育と消費者市民社会(松本恒雄)
特集:環境問題が提起する今日的な課題と対策
低炭素経済への転換のための課題──ポリシーミックスの視点から──(諸富 徹)
排出量取引制度の導入を考える──市場メカニズムが有効になるための条件──(一方井誠治)
スマートグリッドを考える──技術革新がもたらす社会基盤の進化── (山地憲治)
生物多様性を考える──環境問題を考えるための視点──(道家哲平)
森林環境ガバナンスの構築を目指して──保全と生産の両立をいかに達成するか──(柿澤宏昭)
パーム廃棄物エネルギー化プラントへの開発支援とCDM事業の可能性(鳴海清司)
海外のくらしと協同No.11
サイゴンコープとホーチミン市の暮らし(チャン・コック・トゥン)
本誌特集を読んで
4月号「日本農業・農村と直接支払い」
文献紹介
神野直彦著『「分かち合い」の経済学』(松本 進)
澤浦彰治著『小さく始めて農業で利益を出し続ける7つのルール』 (林 薫平)
研究所日誌